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バイデン候補優勢も米大統領選挙結果は法廷闘争か

2020/11/05

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予想外の接戦だがバイデン候補が優勢

米国時間11月3日に投開票が行われた米国大統領選挙では、事前の世論調査の結果を覆して、共和党のトランプ大統領と民主党のバイデン候補が、予想外の接戦を繰り広げた。激戦州(スウィング・ステート)のフロリダ州を制するなど、トランプ大統領は健闘を見せた。

ただし、開票作業がまだ終了していない州が6州残されている現時点(日本時間5日午前9時)で、バイデン候補の選挙人獲得数は253人とトランプ大統領の214人を引き離し、過半数の270人に近付いてきている(AP通信、ABCニュース)。バイデン候補が優勢な状況だ。

まだ開票作業が終了していない、ペンシルバニア州、ノースカロライナ州、ジョージア州、アリゾナ州、ネバダ州、アラスカ州で、それぞれ開票途中段階での現時点での暫定的な勝者がそのまま勝者となる場合には、バイデン候補が過半数の選挙人を獲得して、勝利を決めることになる。実際には、今後開票が進む投票は、民主党支持者の割合が高いとされる郵便投票が多く含まれると見られることから、現状以上にバイデン候補に有利な情勢になるとみられる。

郵便投票の開票が注目点に

ただし、郵便投票は開票作業に時間がかかるうえ、遅れて届いた分も集計する州もあることから、選挙の最終結果が確定するまでにはまだ数日を要する可能性がある。

最大の注目点は、選挙人20人を有するラストベルト(錆びた地帯)のペンシルバニア州だ。開票率88%程度(推定)の現時点(日本時間5日午前9時)で、得票率はトランプ大統領が約52%とバイデン候補の約47%に対してややリードしている。

しかし、ペンシルバニア州では、選挙当日までは郵便投票の開票作業に着手しない規定となっていたことから、今後開票される票では、郵便投票分の割合が高く、バイデン候補に有利に働くと見られている。ただし、ペンシルバニア州では、6日までに遅れて届いた郵便投票も集計するとの規定となっていることから、開票作業が完了するまでにはなお数日を要する。ちなみに、バイデン候補は大票田のペンシルバニア州で仮にトランプ大統領に敗れても、他の州の状況次第では、十分に勝利を収めることが可能な状況である。

法廷闘争は既に始まったか

一方、最終的な選挙結果の確定が、法廷闘争に持ち込まれる可能性が相応に高まっており、その場合には決着までに1か月以上かかる場合もある。

日本時間の4日午後4時半頃、トランプ大統領はホワイトハウスで一方的な勝利宣言ともとれる発言をするとともに、開票作業の差し止めを裁判所に訴える考えを示した。トランプ大統領は郵便投票には不正が多いとして、選挙結果の見直しなどを求めて最高裁に提訴することは、事前から予想されていたことだ。しかし、この時点ではむしろトランプ大統領に有利な情勢であり、そのタイミングで裁判所に訴える考えを示したことは意外であった。敗北が確定した段階で、トランプ大統領は裁判所に訴えるとの見方が一般的であったとみられる。

その後に郵便投票の集計作業が進むと、バイデン候補が有利になっていくことを、トランプ大統領は認識していたのではないか。その時点で開票作業を止めれば、トランプ大統領は優位を維持できた可能性はある。

しかし、裁判所への提訴で即座に開票作業を止めることは難しいことから、この発言は、開票作業が進んで最終的にトランプ大統領がバイデン候補に敗れたことが確定した後に、本格的に法廷闘争に持ち込むための布石であったとも考えられる。敗北が決定した後に法廷闘争に持ち込む考えを示せば、自身の利益のために選挙結果をないがしろにしているとの批判をより浴びやすくなるからである。

その後、トランプ大統領は幾つかの州で開票作業の停止と再集計の訴えを起こしている。法廷闘争は、既に始まっていると言えるだろう。

4日の米国株式市場は「いいとこどり」

米国株式市場では、大統領選挙の終盤にかけて、バイデン候補の勝利をプラスに評価する機運が次第に強まっていった(コラム「確定が遅れる米大統領選挙結果と金融市場の反応」、2020年11月4日)。日本時間4日の夕刻には、トラン大統領優位の観測から、先物市場で米国株、日本株が大きく売られる局面もあった。その後は一転して、バイデン候補優位との見方から、4日の米国株式市場でダウ平均株価は引け値で前日比+367.6ドルの大幅高となっている。

株高の背景には、バイデン候補優位との見方に加えて、議会選挙では民主党が上院の過半数を制することができず、現状と同じく上院での過半数が共和党、下院での過半数が民主党と言う「ねじれ」状態が続くことが、むしろ前向きに評価されたこともあるとされる。

バイデン候補の勝利によってインフラ投資が促される一方、議会のねじれ状態に阻まれて、バイデン候補が掲げる法人税率引き上げ、富裕者増税など株式市場にとって逆風となる政策は実現しない、といういわば「いいとこどり」の解釈である。

選挙結果確定の遅れと政治空白を警戒する金融市場

ただし、法廷闘争によって選挙結果の確定が大きく遅れ、政治空白が生じることは、米国内外での治安の悪化を招くリスクも含めて、金融市場にとっては大きな不確実性が残ることを意味する。金融市場は不確実性を強く嫌うことから、選挙結果が確定するまでは、米国金融市場は不安定な動きを続け、その影響は世界の金融市場にも及ぶだろう。

4日のダウ平均株価は大幅高とはなったが、ドルの頭が重いことや、ビットコインが大幅高となっていること等には、選挙結果を巡る不確実性に対する金融市場の不安が反映されているのだろう。金融市場はバイデン候補勝利への期待から生じる楽観論と、選挙結果の確定が大きく遅れることへの警戒心とが、ともに高水準で入り混じった特殊な状態にある。

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