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中小企業の事業継承の実態と課題

2020/11/06

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親族外承継の割合が徐々に高まっている

中小企業の中には、経営者の高齢化・後継者不足問題から廃業を余儀なくされる、生産性・収益性が比較的高い優良企業が少なくない。それが、中小企業全体の生産性水準を押し下げている面がある。この点から、円滑な事業継承を支援することが、中小企業の生産性向上策の一つとして有力である(コラム「廃業する中小企業には優良企業が少なくない」、2020年11月4日)。

そこで、中小企業庁「中小企業白書」を参考にして、以下では事業継承の実態を概観してみよう。事業を継承した社長と先代経営者との関係を見ると、「同族継承」の割合が高いことが分かる。帝国データバンク「全国・後継者不在企業動向調査(2019年)」によると、2019年で「同族継承」の割合が34.9%となり、「創業者」、「内部昇格」、「外部招聘」、「その他」の分類の中では最も高くなっている。

ただし、「同族継承」の割合が2017年の41.6%から顕著に低下する一方、「内部昇格」の割合は上昇しており、2019年でその割合は33.4%と「同族継承」の割合とほぼ並んでいる。「外部招聘」の割合は緩やかに増加しているが、その水準はまだ8.5%と小さめだ。

「同族継承」の割合が低下する一方、「内部昇格」、「外部招聘」といった親族外承継の割合が高まってきていることは、後継者不在による廃業のリスクを徐々に低下させている可能性が考えられる。

早めに事業継承を準備することが重要

ところで、後継者不在による廃業は、経営者が事業継承を十分に準備していなかったことから生じることも少なくないだろう。事業継承の準備不足、ということも、今後解決すべき課題の一つである。

中小企業庁「中小企業実態基本調査」によると、「今はまだ事業継承について考えていない」との企業の回答割合が35.5%、「現在の事業を継承するつもりはない」との回答割合が29.1%と高水準にある。また、経営者が60代以上の企業での回答割合も、それぞれ24.5%、35.5%と合計で6割を占めている。

中小企業庁によれば、後継者の選定を始めてから後継者の了解を得るまでにかかった時間は「3年超」とした企業の割合が、37%に達している(2017年中小企業白書)。また、後継者が決定してからも、実際に引き継ぐまでに「1年以上」の時間がかかったと、約半数の企業が回答している(2019年中小企業白書)。

このように、事業継承は時間がかかることが多いことから、企業や経営者は、十分な時間的余裕を持って継承者の計画を検討しておくことが、後継者不在による企業の廃業を減らす観点からは欠かせない。

政府は親族外の第三者による継承を後押し

他方で、後継者不足あるいは不在の場合には、M&Aが事業継承のための一つの選択肢となる。

M&A助言を行うレコフによると、事業継承系M&Aの件数はここ数年増加傾向が強まっており、2019年には616件と、2017年の321件から、2年間で2倍近くまで増加している。こうした動きは、オンラインでのビジネスマッチングの広がりなどによって支えられている面もあるだろう。さらに、政府による各種支援策も効果を発揮しているとみられる。

2019年12月に、経済産業省は「第三者承継支援総合パッケージ」を発表した。中小企業の約60%は後継者が決まっていないなか、親族外の第三者による継承を後押しすることが重要、との認識に基づいている。さらにこの「第三者承継支援総合パッケージ」で目指しているのは、2025年までに後継者不在により黒字廃業の可能性のある約60万社の第三者承継を実現することだ。そのために、予算や税制などでの支援を官民一体で進めていく、としている。

具体的には、「事業引継ぎガイドライン」を改訂することで、経営者が第三者承継を選択しやすくすること、事業引継ぎ支援センターの無料相談体制の強化、「事業引継ぎ支援データベース」の民間事業者への開放、後継者の教育支援、事業の集中と選択を促す補助金の創設、各種予算、税制、金融支援の拡充、などである。

事業継承系M&Aで金融機関の果たす役割も大きい

また、事業継承系M&Aでは、金融機関の果たす役割も大きい。M&Aの相手先を紹介された第三者として、最も多いのが金融機関である(2018年中小企業白書)。NTTデータ経営研究所の調査(2016年)によると、事業継承、M&A支援を金融機関から受けたことがあると回答した企業の割合は19.5%を占めている。また、金融機関に期待する経営支援としては、ビジネスマッチング(販売先・仕入先の紹介)、地方公共団体の補助金や制度融資の活用支援に次いで、事業継承、M&A支援という回答が第3位の25.0%を占めている(複数回答)。中小企業は事業継承、M&A支援で金融機関に大いに期待しているのである。

これに対して、金融機関もそうした企業のニーズに積極的に応えているのが現状だ。地方銀行の事業継承の相談受付件数は2016年度で28,179件と、2010年度の2.6倍にまで増加している(全国地方銀行協会)。また、信用金庫のM&A支援実績は、同時期に約10倍にも達している(全国信用金庫協会)。

地域金融機関が有する事業継承、M&A支援に関わる企業情報を、広域で共有することで、事業継承に関わるマッチングをより強化できる余地はまだ大きいのではないか。この点、地域金融機関自らの取組みだけでは十分でないとすれば、行政が関与する形でより広域な連携を実現させ、それを通じて中小企業の事業継承を加速させていくことも選択肢の一つとなるだろう。

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