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バイデン氏勝利も民主党の誤算はなぜ起きたか

2020/11/09

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バイデン氏勝利もトランプ大統領は敗北を認めず

米国時間11月7日には、民主党バイデン氏がペンシルバニア州を制することで、大統領選挙での勝利が決まった。しかし、共和党のトランプ大統領は、まだ敗北を認めていない。選挙の正当性を巡って、法廷闘争に持ち込むことで選挙戦を続ける考えを示している。その場合でも、バイデン氏の最終的な勝利はもはや簡単には揺るがないと見られるが、新大統領の確定までになお時間を要することになるだろう。

大統領選挙の結果が完全に確定しない状況が長引く中で、両党の支持者らの間でデモや暴力行為が生じる懸念があるだろう。また、海外で米国を挑発するような軍事的行動が生じるリスクもある。さらに政治空白のもとで、米国内でのコロナ対策に遅れが生じることも懸念されるところだ。

このような事態を受けて、選挙結果が完全に確定するまでは、米国金融市場も不安定な動きを続けるのではないか。

バイデン候補勝利は日本経済・金融市場に追い風

議会選挙の結果も未だ確定していないが、下院では民主党がわずかに過半数を維持し、上院は両党がほぼ拮抗した状況となる可能性が高い。議会勢力が特定の党に大きく偏らないもとでは、いずれの候補が大統領になっても、議会に阻まれて、思った通りの国内経済政策は実行しにくい。そのため、バイデン政権が成立しても、国内経済政策には劇的な変化は生じないのではないか。

他方で、より大きな違いが出やすいのは、対外的な政策だろう。大統領令の発動なども利用し、大統領の権限で進める余地が大きいためだ。トランプ大統領は地球温暖化対策をめぐる国際的な枠組み「パリ協定」、「環太平洋経済連携協定(TPP)」協議、「イラン核合意」、世界保健機関(WHO)等からの離脱を次々に決めた。バイデン候補は、トランプ大統領が離脱・脱退をしたこれらの国際協定・合意に復帰する考えを明言している。

バイデン政権が成立すれば、米国第一主義が修正され、国際協調路線へと回帰することになるだろう。国際協調が国是である日本にとって、同盟国の米国と足並みを揃えて国際的な政策を進めることが、より容易になるだろう。

貿易政策についても、バイデン氏はトランプ政権が引き上げた追加関税率を元に戻す考えを示している。トランプ政権下での米中貿易摩擦は、世界経済に大きな打撃を与えた。この点から、バイデン政権の成立は、日本経済の輸出環境を改善させ、総じて日本経済そして金融市場にとっては朗報だろう。

コロナ対策はトランプ大統領の大きな失点にならなかった可能性

ところで、大統領選挙では民主党バイデン候補が、比較的大差をつけて共和党トランプ大統領を破るとするのが、事前の大方の見方であった。しかし実際には前回2016年の選挙と同様に、トランプ大統領は事前予想を覆す躍進を見せたのである。

選挙結果の詳細な分析は、開票作業が終わった後に研究機関によって行われるだろうが、現時点では、この民主党の誤算について幾つかの説明がなされている。

第1に、事前の世論調査で示されていたほど、そして、民主党陣営が期待していたほどには、有権者は、トランプ大統領のコロナ対策に強い不満を抱いていなかった可能性があることだ。

CNNテレビの出口調査によると、有権者が最も重視したのは経済問題であり、次いで人種差別問題、そして新型コロナ対応は3番目であった。その結果、民主党は、事前に期待していた都市郊外の女性のトランプ離れを引き出すことにも失敗した可能性がありそうだ。都市中心部から郊外へとコロナの感染が広がることを警戒する都市郊外の女性が、感染抑制に積極的ではないトランプ政権への批判を強める、と民主党は読んでいたのである。

意外と評価されたトランプ大統領の経済政策運営

第2は、上記の世論調査で示されたように、有権者の最大の関心事は経済問題であり、さらに、トランプ大統領の経済政策が予想外に支持されたことが、民主党の誤算につながった可能性がある。

コロナショックを受けて米国経済は大幅に悪化したが、それ以前の良好な経済環境や2017年のトランプ減税などの政策が、有権者に評価されたのではないか。さらに、選挙直前に発表された7-9月期の実質GDP速報値が、前期比年率+33.1%と4-6月期の同-31.4%から急回復となったことが、選挙でトランプ大統領に有利に働いた可能性もあるだろう。

第3は、ヒスパニック系の支持を民主党は十分に獲得できなかったと見られることだ。それが顕著に表れたのは、トランプ大統領が勝利した激戦州の一つフロリダ州での選挙結果だ。バイデン候補は、フロリダ州マイアミ・デイド郡で敗れたが、マイアミを含む同郡はヒスパニックが多い地域だ。また同郡で、民主党がヒスパニック系有権者の支持を広げることができなかったことは、2年前に共和党の現職候補を破った2人の民主党議員が、ここで落選したことにも表れている。

最大の敗者は世論調査を実施する機関との声も

このような民主党の誤算を引き起こした理由の一つは、事前の世論調査の精度にあったのではないか。多くの世論調査が選挙直前まで、支持率で1ケタ台後半の差で、バイデン候補がトランプ大統領に対して優位に立っていることを示していた。ウォール・ストリート・ジャーナル紙とNBCニュースの共同調査では、バイデン候補の最終的なリードは10ポイントであった。

得票率では、バイデン候補が最終的にトランプ大統領を上回る可能性が極めて高いが、ここまでの差ではないだろう。追い風の世論調査の結果に安心、油断して、民主党が都市郊外の女性やヒスパニック系の有権者の支持取り付け策などを、十分に講じなかった可能性もあるだろう。

前回の2016年の大統領選挙時と同様に、事前の世論調査の結果と選挙結果とが大きく乖離した点から、今回の選挙で最大の敗者は、世論調査を実施する機関、との声もある。その背景については、幾つかの説が広まっている。

世論調査が正しくなかった理由で多くの推測

前回の大統領選挙で、世論調査の結果よりもトランプ大統領が多くの支持を集めた背景には、調査対象にトランプ大統領の支持基盤である地方の住民や非大卒有権者が十分に取り込まれていなかったため、ともされた。今回も、こうした有権者を調査対象に取り込む努力が十分ではなかったという指摘がある。

前回の大統領選挙で、調査機関への不信感が予想以上に広がった結果、多くの保守派有権者が、世論調査に参加しなかったとの見方もある。

調査への参加率の低下が、その精度を下げているとの指摘もある。電話を使った調査手法は引き続き多く用いられているが、見知らぬ相手からの電話に出る人の数は、米国では次第に減ってきている。ピュー・リサーチ・センターによれば、世論調査の回答率が1997年の36%から2018年には6%まで低下したという。

さらに、筋金入りの共和党支持者、トランプ支持者は、電話での調査に応じない傾向がある、との指摘もある。前回と同様に、世論調査は「隠れトランプ」を多く取りこぼしてしまった、ということだろうか。

以上の説は、現状ではなお憶測の域を出ていないものばかりだ。今後、次第に調査、解明が進んでくるだろう。

ところで、こうした世論調査のバイアスの原因を突き止めることは、単に選挙の予測精度を上げるばかりでなく、平素から、政府やその政策を国民がどのように評価しているのかを正確に捉えるという観点からも重要なことだ。それが実現すれば、世論調査から国民の意見がより正確に把握できるようになり、それをフィードバックすることによって、政策がより良い方向に進む、という効果も期待できるのではないか。今後の調査、研究の成果を待ちたいところだ。

(参考資料)
"What Went Wrong With the Polls This Year?", Wall Street Journal, November 6, 2020
"So Much for the Election Landslide", Wall Street Journal, November 5, 2020
「バイデン氏がフロリダ州を落とした理由」、フィナンシャルタイムズ紙、2020年11月5日

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