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日本銀行が地域金融機関支援の特別当座預金制度の導入方針を決定

2020/11/11

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通常会合で決定されたプルーデンス政策

10日に開かれた政策委員会・通常会合で、日本銀行は「地域金融強化のための特別当座預金制度」を、3年間の時限措置として導入する方針を決定した。これは、日本銀行の政策全体に影響を与える、かなり大きな決定と考えるべきだ。

原則週2回開かれる通常会合は、年8回開かれる金融政策決定会合とは異なり、物価安定の達成を目指すマクロ金融政策以外の議題を議論し、また採決する場である。

今回の決定は、一定の要件を満たす地域金融機関を対象に、当座預金残高に対して年0.1%の上乗せ金利を付ける措置である。2016年に階層型となり複雑化した当座預金制度が、一段と複雑となった感は否めない。さらに、実質的にはマイナス金利政策の修正であり、マイナス金利政策の形骸化を進める措置という側面もある。

この措置を、金融政策決定会合ではなく通常会議で決めたことは、それが金融政策ではなく、物価の安定と並んでもう一つの日本銀行の使命である信用秩序の維持、つまり金融システムの安定の観点から実施する、プルーデンス政策であるためだ。

今回の措置で、一部の銀行に対して、当座預金残高に年0.1%の上乗せ金利を乗せることは、政策金利の-0.1%を事実上引き上げることになる。コールレートにも多少上昇圧力がかかるだろう。長めの金利にも上昇圧力となる。これは、マクロ金融政策の観点からは、金融引き締め策のように見える。

将来のマイナス金利解除の布石となる可能性も

このように、マクロ金融政策の観点に照らせば金融引き締め策のように見える今回の措置は、2%の物価安定目標を目指して金融緩和を実施している、現在の公式な日本銀行の金融政策スタンスと矛盾してしまう。

従って、この施策がマクロ金融政策ではなく、金融システムの安定に資するマクロプルーデンス政策であることを明確にする観点からも、金融政策決定会合ではなく通常会合で決定されたのである。

ただし、金融政策決定会合で既に決定された、銀行に対してマイナス金利で貸出をする特別オペと今回の措置とは、銀行に対する事実上の補助金である、と言う点では共通している。こうした施策を通じて金融機関の収益が改善し体力が高まれば、貸出が促され、経済活動にもプラスとなる。それは、今までの異例の金融緩和策によって生じた、銀行の体力低下という副作用を緩和させる正常化策であって、金融引き締め策ではない。

マクロ金融政策は金融政策決定会合で決め、プルーデンス政策は通常会合で決めるといっても、実際には両者の境目は曖昧である。本来であれば、両者を一体的に決定することが望ましい。

今回の措置に、従来の金融緩和策が生み出した、金融機関の収益悪化という副作用を緩和する狙いがあるとすれば、その延長線上には、マイナス金利の解除があるのではないか。それが実施に移されるのは、黒田総裁の退任後など、まだ先のことであろうが、今回の措置はその布石とも解釈できるのではないか。

経費率などから判断した経営基盤の強化が要件に

地域経済の発展に貢献すること、経費率の低下などで測った経営基盤の強化を実現することが、銀行がこの制度を利用できる要件である。今回の措置には、そうした金融機関の取組みを促す狙いがある。しかし実際には、比較的緩い条件で地域金融機関の利用が認められそうだ。この点から、やはり銀行への補助金、との性格が相応にあることは否めない。

さらに、要件には経営統合等を通じた経営基盤の強化策も含まれる。これは、日本銀行が経営統合等を後押しする意図を示しており、踏み込んだものと言えるのではないか。

政府の政策を側面支援する施策の第2弾

経営基盤の強化を通じて地域金融機関の経営が安定することは、信用秩序の維持(金融システムの安定)を使命とする日本銀行自身が、本来期待するところである。

それに加えて、今回の措置は、コロナ問題の下での地域経済の活性化と地域金融機関の経営の安定を目指す政府の政策に、かなり寄り添ったものだ。コロナ問題で打撃を受けた企業を支援する政府の特別貸出制度を側面から支援するために、日本銀行は特別オペ制度を導入した。今回の措置はその第2弾と位置付けることもでき、政府・金融庁の金融機能強化策を側面から支援する狙いがあるだろう。

さらに、地域経済の再生を重視し、また、地域金融機関の再編を口にしている菅首相への配慮も含まれているのではないか。

日本銀行は金融システムの安定重視に舵を切る

今回の措置は、コロナショックをきっかけに、日本銀行が2つの使命のうち、信用秩序の維持(金融システムの安定)に大きく比重をかけ始めたことを意味している。これは、大いに歓迎すべきことだ。

またこの点から、地域金融機関の収益を一段と悪化させかねないマイナス金利の深掘りを実施する可能性は、今回の措置を受けて一段と低下した、と言って良いだろう。また、既に述べたように、この措置によってマイナス金利政策の修正と形骸化も一段と進むと言える。事実上の正常化は、このような形で着実に進められているのである。

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