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コロナ禍が進化させるスマートフォン金融サービス

2020/12/16

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新たな金融サービス仲介業が始まる

コロナ禍によって、金融サービスの分野でも非対面サービスへのニーズが高まり、オンラインやスマートフォンアプリを通じたサービス提供の拡大へとつながっている。それはまた、フィンテック企業による金融サービスの提供を後押しする側面もある。

また法制上でも、そうした流れが日本では加速される方向にある。2021年後半にも、銀行、証券会社、保険会社の各商品を、業態をまたいで取り扱える「金融サービス仲介業」が始まる。家計簿アプリなどのオンラインサービスを手掛けるフィンテック企業が参入することが期待されている。一つの登録で業態横断の商品仲介が可能となるほか、特定の金融機関に偏ることなく、複数の金融機関の商品を幅広く取り扱うことが容易になる。

フリマアプリ「メルカリ」のスマホ決済サービスを運営するメルペイも、参入を検討している。利用者に対するサービス拡充という観点から、新たな金融サービス仲介業を選択肢の一つと捉えているという。

法改正で銀行も業務拡大へ

新たな金融サービス仲介業の創設は、フィンテック企業による金融サービスへの進出を後押しし、伝統的な金融業が顧客とのインターフェースを奪われる流れを一段と促す可能性もあるだろう。

他方で金融庁は、銀行業の業務拡大を容易にする法改正を視野に入れており、金融業とフィンテック企業との間の競争を相互に高めることを通じて、イノベーションの推進、顧客の利便性の向上を図る狙いだ。

これは、首相の諮問機関である金融審議会の作業部会が年内にまとめる報告書案に盛り込まれ、来年の通常国会に銀行法改正案が提出される見通しだ。銀行本体が、自行向けに開発したアプリを他の企業に販売したり、顧客データを活用して広告ビジネスを展開したりすることなどが可能になる。また、フィンテックのグループ会社の設立が、現在の認可制から届け出制になる。

米巨大IT企業の金融サービス拡大

米国でも、巨大IT企業による金融サービスの拡充が見られている。11月にグーグルは、決済アプリ「グーグルペイ」を刷新することを発表した。複数の友人との割り勘や、店舗やネットでの支払い履歴の検索などが簡単となる。

さらに、口座の開設がネット上で完結できるようになる。グーグルはシティバンクや地方銀行、信用組合など米国の11の金融機関と提携する。それを通じて、あらゆる取引がモバイルで完結する「プレックス」と呼ばれる口座をグーグルペイ上に開設することができるようになる。この口座は、グーグルペイに統合され、毎月の口座手数料などがかからないという。

この機能は2021年に開始される予定だが、グーグルのアプリを使って顧客満足度を高めることを狙う地銀の参加が、さらに広がっていく可能性も考えられる。

2019年にはアップルが米投資銀行のゴールドマン・サックスと提携して、独自のクレジットカード「アップルカード」の発行を開始した。一方グーグルは、カードの提供よりも、お金のやり取りがアプリの中で完結する方向性を今回選んだのである。さらにフェイスブックも、米国ではメッセンジャーに送金機能を実装しているほか、デジタル通貨「ディエム(旧リブラ)」を早ければ来年1月に発行する予定であり、金融サービス分野への進出を加速させている。

スマートフォン上での金融サービス拡大

日本でも、IT企業によるスマートフォン上での金融サービスの拡大が見られている。フリマアプリのメルカリは、スマートフォン決済「メルペイ」で、小口融資のファンドに投資できる仕組みを始める。これまで、顧客がメルカリで得た代金の使い道は、中古品の購入やメルペイを通じた買い物に限られていたが、メルカリが借り手となるファンドに出資し、運用することができるようになる。

他のスマホ決済業者も、買い物などで得られるポイントの使い道を多様化している。NTTドコモやソフトバンクグループ傘下の「ペイペイ」は、ポイントを疑似的に運用するサービスを提供している。また、楽天やLINEでは、グループ内の証券会社を通じて、ポイントで株式や投資信託が購入できる。ポイント利用の多様化で、各社は自社の経済圏拡大に向けて顧客を囲い込む戦略である。

コロナ禍は銀行・フィンテック企業間での競争・協業を加速

英デジタル銀行のレボリュートは10月に、日本市場で本格的にスマートフォンを使った金融アプリのサービスを開始した。海外送金や外貨両替に強く、既存の金融機関と比べると有利な条件での取引が可能となる。さらに今後は、株や貴金属への投資など幅広い金融サービスの提供も視野に入れているという。レボリュートの日本法人は、「金融版のスーパーアプリのナンバーワンを目指す」と述べている。

コロナ禍で高まる非対面での金融サービスへのニーズの高まりは、国内では法改正と相まって、銀行とフィンテック企業間での競争・協業を加速させている。そうした中で、スマートフォンアプリ上での金融サービスの広がりは、内外でより顕著となっている。日本では、ポイント利用という独自の領域での進化も見られている。他方で今後は、海外の金融機関、IT企業の参入等からより競争が激化していく姿が考えられる。

(参考資料)
「フォーカス2020 金融サービス仲介業、変革迫る“新たな担い手”」、ニッキン、2020年11月16日
「金融庁:銀行、アプリ外販可に 収益機会増へ業務多角化 金融庁」、毎日新聞、2020年12月5日
「リーダーのためのDX(デジタルトランスフォーメーション)超入門-第7回-「グーグル銀行」が迫る金融のデジタル変革」、週刊東洋経済、2020年12月12日
「メルカリ、メルペイ残高で小口投資」、日経産業新聞、2020年12月7日
「英スマホ金融、日本参入、レボリュート、海外送金の手数料安く」、日本経済新聞、2020年10月9日

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