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日本銀行が財務省からドルを買う狙いは

2020/12/16

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日本銀行は16日に、外国為替や外貨準備の管理を行う財務省の「外国為替特別会計(外為特会)」から、60億ドル程度を買入れることを決めた。買入れ日は2021年3月末までとなる。日本銀行は過去に、売り戻し条件付きで外為特会から米国債を買入れた実績はあるが、買い切りは初めてのことだ。

日本銀行は今回の決定の目的について、「今般、日本銀行では、新型コロナウイルス感染症にかかる状況も踏まえ、国際金融協力や金融機関に対する外貨資金供給のより円滑な遂行に備える観点から」と説明している。実際には、ドルオペを通じて金融機関のドル調達を機動的に支援する、後者の狙いにより比重が掛かっているのではないか。

この点から、先般方針を決めた「地域金融強化のための特別当座預金制度」の創設と並んで、金融システムの安定・確保の施策の一環と位置付けることができる。コロナショックをきっかけに、日本銀行の政策は、物価安定という使命(マンデート)の達成から、金融システムの安定というもう一つの使命の達成に、比重が移っているのだ。

中国などのように、外貨準備の管理を中央銀行が行う国もあるが、日本では、外貨準備は政府が管理している。しかし、過去の経緯(外貨準備の運用益)から、日本銀行も少額の外貨を保有している。現時点では6.7兆円相当規模である。それは、国際金融協力、成長基盤強化のための資金供給策(ドルオペ)に活用されている。また、ドル調達に支障が生じた金融機関を緊急に支援するための備えも確保されている。

しかし、日本銀行が保有する外貨資産は、日本銀行にとっては厄介な存在でもある。外貨資産は時価評価であるため、円高が進むとその円建ての価値が目減りし、その分日本銀行の利益が減ってしまう。これが、日本銀行の収益を悪化させたことで、国会で問題になったことも過去にはある。

このように日本銀行には、できるだけ外貨資産を持ちたくないという側面もある。しかし、コロナショックを受け今年3月頃に金融市場が不安定になった際には、ドルの調達コストが一時大きく上昇するなど、邦銀のドル調達にも一定の支障が生じた。米連邦準備制度理事会(FRB)が日本銀行のドルオペのために、大量のドルを供給してくれたおかげで、邦銀の間で深刻なドル調達問題は生じなかった。

ただし、この際の経験から日本銀行は、不測の事態にも備えるため、邦銀に対するドル供給の枠組みを一段と強化する必要性を感じ、今回の決定に至ったのだろう。やはり、コロナショックを契機に、日本銀行の政策は、物価安定の達成から金融システムの安定へと、比重を移したのである。

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