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2021年度政府経済見通しと予算編成の課題

2020/12/17

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追加経済対策の経済効果の試算は過大で信頼性が高くない

政府は18日に2021年度の経済見通しを決定する。日本経済新聞が17日に報じたところによると、2021年度の実質GDP成長率は+4%程度とする方針のようだ。7月時点の+3.4%から上方修正となる。

政府は2021年度第4四半期、つまり2022年1~3月期に実質GDPをコロナショック以前のピークの水準に戻すという目標を掲げている。ここから逆算して、2021年度の成長率見通しを決めた印象がある。

上方修正の主な理由は、追加経済対策の効果を新たに盛り込んだことである。政府は追加経済対策が実質GDPを+3.6%程度押し上げるとみており、そのうち+2.5%程度は2021年度に効果が表れるとしている。これは過大な推計ではないか。

追加経済対策を反映した2020年度補正予算では、脱炭素化のための2兆円の基金の創設など、使途や執行時期が明確でない項目がある。減額されたものの5兆円規模残された予備費、1.5兆円の地方創生交付金なども同様だ。これでは、経済効果の正確な試算はそもそもできないはずだ。

2021年度の成長率見通しの7月時点からの上方修正幅と、今回反映された追加経済対策の効果の試算値も、大きく食い違う。上方修正幅は0.6%程度であり、2021年度の追加経済対策の効果+2.5%程度を大幅に下回る。

追加経済対策の効果の試算値である+2.5%程度を引くと、新たな2021年度の実質GDP成長率見通しは+1.5%程度となり、7月時点から大幅な下方修正となった計算になる。これは現実的でないだろう。

成長率見通しは回復時期が先にありきか

政府も、不確実性、信頼性が高くない追加経済対策の効果の試算値をそのまま今回の2021年度の成長率見通しに反映したのではなく、やはり2022年1~3月期に実質GDPをコロナショック以前のピークの水準に戻すという目標から逆算して成長率を決めたとの印象が拭えない。ちなみに筆者は、実質GDPがコロナショック以前のピークの水準に戻る時期は、2024年後半と考えている。

12月15日に公表された日本経済研究センターの予測機関の予測値集計によると、2021年度の実質GDP成長率の平均値は+3.4%だ。ここには、追加経済対策の効果が明示的には盛り込まれてない点を考慮すれば、今回の政府見通しと大きな違いはないだろう。

しかし筆者は、政府の成長率見通しは高すぎると考えている。その数字に基づいて、2021年度当初予算が編成されれば、甘めの税収見積もりとなってしまうだろう。実際には、政府見通しでGDPデフレータ、そして名目GDP成長率がどのような水準に決まるのかが重要だ。18日に決定される政府経済見通しで、その点を確認したい。

巨額の予備費などの問題

政府経済見通しに基づいて、政府は12月21日に2021年度予算案を閣議決定する。各種報道によると、一般会計の歳出総額は106兆円台後半で調整されており、2020年度の102.7兆円を大幅に超えて過去最大を更新する。当初予算で100兆円を超えるのは3年連続である。また2021年度の税収見積もりは2020年度当初を下回り、新規国債発行額も11年ぶりに前年度当初比で増える見込みである。

政府は2021年度予算案で防衛費を前年度比300億円増の5兆3,400億円程度とする方針だ。7年連続で過去最大を更新する。次期戦闘機の開発やミサイル防衛関連の経費も積み増すという。新型コロナウイルス問題で、財政環境が未曽有の悪化となるなか、防衛費の抑制がもっとできないのか、しっかり精査して欲しい。

高齢化に伴う自然増から、年金・医療といった社会保障費も増加する。2022年度からベビーブーマーが75歳以上の後期高齢者となっていき、社会保障費は急増する。しかし、先般与党内で決着した高齢者医療費の自己負担分2割への一部引き上げ措置をみても、2022年度以降の社会保障費急増への対応は不十分なままである。

また、通常5,000億円程度の予備費に加えて、新型コロナウイルス対策の予備費を別に5兆円積む。そんな規模の予備費が本当に必要なのか。2020年度2次補正予算では10兆円規模の予備費が計上されたが、それ以前の予備費と合わせて現時点で7兆円程度が使われずに余っている。3次補正予算案では、一部が減額修正されるのである。

不測の事態が生じたら、補正予算で対応すべきであり、使途が決まっていない予算の計上はできる限り抑えるべきだ。

3次補正に支出を前倒しで詰め込み当初予算の見栄えを良くする

15日に閣議決定された2020年度3次補正予算では、「ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現」、「国土強靭化計画」といった、不測の事態に対応する補正予算編成の趣旨に沿わない支出が多く計上された。使途や執行時期が特定されない基金を多用することで、予算規模を膨らませる意図も感じられるところだ(コラム「政府の追加経済対策とその課題」、2020年12月8日)。

2020年度3次補正予算に支出を前倒しで詰め込むことで、2021年度当初予算の規模をできるだけ抑えたい、との狙いもうかがえる。予算規模の増大、新規国債発行の急増など、見栄えの悪いところは2020年度3次補正予算に押し付けて、2021年度当初予算の見栄えを良くしようとしているのではないか。

始まらない財源確保の議論

それでも、2021年度当初予算案での一般歳出規模、新規国債発行額も増加する。その中で、財政の健全化という方向性が、具体策でないとしても、議論としても全く出てきていないのは問題だろう。

現在の経済状況の下では、来年度の増税実施は現実的でないことは確かであるが、将来の財政の財源確保、健全化の施策については、予算編成と並行してしっかりと議論することが必要ではないか(コラム「与党が税制改正大綱を決定:より幅広な議論を期待」、2020年12月10日)。

財源を安易に国債発行に頼り続ければ、将来世代の負担増加から中長期の成長期待は低下し、企業は投資を抑制する姿勢を強めかねない。そうなれば、ポストコロナの経済の回復力を削いでしまうだろう。また、政権が成長の2本柱と位置付ける地球温暖化対策、デジタル化についても、関連投資に企業が消極的になり、思ったように進まなくなってしまうのではないか。

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