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物価下振れに『金融緩和の点検』で先手を打つ日本銀行

2020/12/18

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日本銀行は政府の政策の側面支援を続ける

日本銀行は18日に開いた金融政策決定会合で、大方の事前予想通りに追加緩和策の実施などの金融政策変更を見送った。他方、これも事前予想通りであるが、2021年3月末を期限としていた、コロナ関連貸出に対応して民間銀行に好条件で資金を貸出す「特別プログラム」を、9月末まで6か月延長することを決めた。必要であれば更なる延長を検討する。

この措置は、先般閣議決定された追加経済対策で、政府が民間金融機関の実質無利子・無担保融資の申請期限を2021年3月末まで延長することを決めたことに呼応したものだ。

日本銀行は、追加緩和の実施を見送りながら、この特別プログラムや先月方針を決めた「地域金融強化のための特別当座預金制度」導入などを通じて、政府の政策を側面支援する姿勢を当面続ける可能性が高い。

物価目標政策の点検を実施

今回サプライズだったのは、コロナショック後に、物価上昇率がマイナスの領域に陥り、2%の物価目標から一段と乖離したことを受けて、その原因の検証、金融緩和策の「点検」を実施する方針を、日本銀行が示したことだ。これは、「2%を実現するためのより効果的で持続的な金融緩和の点検」と説明されている。検証結果は、来年3月の決定会合を目途に発表される。

過去にも、日本銀行は政策方針を大きく転換する前には、その正当性をアピールするために検証作業を行うことがしばしばあった。2016年には「総括的検証」を実施し、9月にそれを公表すると共に、現在も続くイールドカーブコントロールの導入を決めている。

点検は金融緩和の枠組みの変更につながらない

こうした経緯を踏まえて、今回の検証は追加金融緩和策実施の布石、との見方が市場に生じる可能性も考えられる。しかし、少なくとも政策金利の引き下げや資産の買入れ拡大といった、本格的な追加金融緩和策がこの検証を踏まえて実施される可能性は低いだろう。

2016年の「総括的検証」を踏まえて実施されたイールドカーブコントロールの導入も、その本質は、長期金利の安定や国債買入れペース縮小という、金融緩和による副作用の軽減を狙った措置であり、一種の正常化策と考えることができる。

対外公表文では、「(現在の金融緩和の)枠組みは現在まで適切に機能しており、その変更は必要ないと考えている。この枠組みのもとで、各種の施策を点検し。。。」と説明されている。現在の金融緩和の枠組みを見直すような追加緩和実施への観測が広がらないよう、日本銀行は強く市場をけん制しているのである。

物価目標未達の批判に先手を打つ狙いか

今回、日本銀行が物価の検証を行う方針を示した最大の狙いは、コロナショックを受け物価上昇率がマイナスの領域にまで大きく下振れたことで、2%の物価目標の妥当性や、物価目標未達の責任などを問う意見が高まることに対して、先手を打つことにあったのではないか。

更に、もはや2%物価目標達成ではなく、デフレ回避に向けてより積極的な金融緩和をすべき、との意見が高まることに、先手を打つことにあったのではないか。

そうであるとすれば、コロナショックを受けた物価上昇率の下振れは一時的な側面が強く、2%の物価目標は依然として妥当である、との分析が示される可能性が高い。それとともに、本格的な追加緩和でない形での何らかの追加措置が示されるのではないか。

できるところまで政府の政策に寄り沿い続ける日本銀行

コロナショック後に日本銀行が注力してきたのは、政府の政策に寄り沿い、それを側面支援する形で、企業、雇用を守るための銀行への資金供給策「特別プログラム」である。更に「特別当座預金制度」も、政府の金融システム対策や地域経済活性化策への協調策と位置付けることができる。

政府のコロナ対策は、給付金や助成金を通じて企業・労働者を支える政策から、企業の業態転換やM&A等を補助金、税優遇で助け、生産性向上につなげる施策へと次第にその比重を移し始めている。さらに、成長戦略の柱として、地球温暖化対策、デジタル化の推進のため、企業に関連投資を促す財政・税制上の措置の導入を目指している。

日本銀行は「点検」の結果を踏まえた上で、中小企業の競争力向上に資する業態転換やM&A、地球温暖化対策、デジタル化に資する企業の設備投資への銀行融資も、「特別プログラム」の対象に加えていく、あるいは同様のスキームを新たに創設する可能性があるのではないか。

また、中立性の観点や市場機能を損ねる観点などから筆者は反対であるが、地球温暖化対策、デジタル化に積極的な企業の銘柄から構成される新たなETFの買入れを始める可能性もあるのではないか。

できるところまで政府の政策に寄り沿い、どこまでもついていく日本銀行のこうした政策姿勢、いわば「抱き着き戦略」は、当面続くことになるだろう。

いずれは物価目標見直しにつながる可能性も

このように、「点検」は何らかの追加措置につながる可能性は高いが、現在の金融緩和の枠組みを修正するような本格的な追加金融緩和策につながる可能性は低い。

2%の物価目標はなお維持される可能性が高いが、他方で日本銀行は、本音では、2%の物価目標は妥当でなく達成はかなり困難、と考えているだろう。また、金融緩和策の副作用についても懸念を強めているのではないか。

こうした点から、将来、次期総裁の下などで明示的な正常化策を実施することを日本銀行は念頭に置いているのではないか。しかし、それを大きく阻むのは2%の物価目標である。2%の物価目標を長期的な目標とし、当面の金融政策運営はそれにとらわれないとするような物価目標政策の柔軟化が、明示的な正常化策実施の前には必要となる。今回の「点検」は、このような将来の物価目標政策の見直しと金融政策の正常化の布石となる可能性はあるのではないか。

ところで、今回の日本銀行の「点検」の表明については、決定会合開催中に一部メディアが報じている。今後、情報漏洩問題として、日本銀行の中で原因究明と対策が講じられる可能性があるだろう。

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