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グリーンボンド・トランジションボンドの信頼性を高める

2020/12/21

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グリーンボンドで低利資金調達が可能に

気候変動など社会貢献を目的とする投資に、世界の投資家の資金が大量に流入している。そうした資金を取り込もうと、政府や企業は、グリーンボンド(環境債)を積極的に発行している。

グリーンボンド市場をけん引しているのは欧州勢だ。特に銀行の積極姿勢が目立っている。ドイツ銀行の場合、グリーンボンドの発行で調達した資金の利用目的を、「再生可能エネルギー、エネルギー効率化、グリーンビルディングの分野への投融資」と説明している。

グリーンボンドの発行によって、政府や企業が低いコストで資金を調達できていることを示す分析結果が示されている。通常の債券発行と比べた調達コストの差は「グリーニアム」と呼ばれている。

仏資産運用会社アムンディの計算によると、「グリーニアム」は最大で11bp(ベーシスポイント)に達しているという。米通信大手ベライゾン・コミュニケーションズの最新の起債では、投資家は約14bpのプレミアムを支払ったと説明している。

また、フランスのビジネススクールが行ったユーロ建て債券の研究によると、グリーンボンドでは従来の債券と比べて、利回りが18bp低い水準に抑えられたとしている。

日本政府はトランジションボンドの発行を支援

グリーンボンドへの投資を通じて、投資家は企業の地球温暖化対策を後押しすることになる。他方、地球温暖化対策に消極的な企業の株式や債券から投資資金を引き揚げる「ダイベストメント」を通じて、投資家が企業の地球温暖化対策を促す試みもなされている。

しかしこれだけでは、企業の脱炭素化、地球温暖化対策を金融投資の面から強く後押しするのには十分ではないだろう。そもそも、地球温暖化ガスの排出量が多い、鉄鋼や化学など重厚長大産業は、グリーンボンドの発行が難しい。そうした産業が排出量の抑制を進めることこそが、地球温暖化対策を大きく前進させる可能性があるが、そうした産業は、低利のグリーンボンドの発行を通じて対策を実施することが難しいのが現状だ。

そこで新たに広まってきたのが、トランジションボンド(移行債)だ。地球温暖化ガスの排出量の多い企業などが、将来の排出量削減につながる事業に資金をあてる目的で発行する債券である。トランジションボンドには、それを発行する企業が、気候変動リスクを減らす方向で事業モデルを転換することを促す効果が期待できる。

2050年の排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)の目標を新たに掲げた日本政府も、鉄鋼や化学など温室効果ガス排出量の多い企業の脱炭素化を進めるための新たな資金調達手段として、「トランジションボンド(移行債)」の発行を支援する方向だ。来年3月までに指針を策定し、来春以降の発行開始を目指すという。

投資家の信頼感を高めていく取り組みが重要

ただし、グリーンボンドやトランジションボンドが、企業の温室効果ガス排出量の削減につながる効果については、一部で疑問視する声も出ている。地球温暖化対策に熱心な振りをして低利で資金を調達するが、実際にはそれほど積極的ではない、といった企業の存在などを指摘する向きもある。そうした企業の行動は、「グリーン・ウォッシング」と呼ばれる、そうした不信感が広がると、投資家もグリーンボンドの投資に慎重になってしまう可能性があるだろう。

そこで、国際資本市場協会(ICMA)がグリーンボンドやトランジションボンドに関する指針を出した。これは、グリーン・ウォッシングを減らすことに貢献するのではないか。グリーンボンドやトランジションボンドの発行を一時的なブームに終わらせないためには、こうしたルール作りを通じて、投資家の信頼感を高めていく取り組みを粘り強く進めていくことが重要だろう。

ただし、地球温暖化対策の一翼を投資家に委ねることで、各国政府が税財政上の措置や規制措置を通じて行う地球温暖化対策が疎かになってもいけない。

(参考資料)
"Why Going Green Saves Bond Borrowers Money", Wall Street Journal, December 18th, 2020
「50年排出ゼロ、マネーも変わる 投資撤退より変革後押し-SDGsが変えるミライ」、日本経済新聞電子版、2020年12月18日
「脱炭素へ『移行債』政府指針策定へ 企業の投資促進」、静岡新聞、2020年12月20
「『灰色グリーン債』 排除指針、中核事業に適用、資金用途を開示(MORALMONEY)」、日本経済新聞、2020年12月11日

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