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米追加経済対策と英EU通商交渉で明暗

2020/12/22

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米国の追加経済対策は成立へ

年末に向けてぎりぎりの交渉を続けてきたのが、米国議会の追加経済対策と英EUの通商交渉の2つだ。ともに金融市場のかく乱要因となっている。

このうち、米国の追加経済対策はようやく実現された。20日に共和・民主の両党は、9,000億ドル規模の経済対策で最終合意に至り、まもなく採決される見込みだ。トランプ大統領はこの超党派での合意案を支持していると表明していることから、大統領の署名をもって成立する見通しとなった。

規模は、共和党と民主党がそれぞれ主張してきたものの中間であり、お互いに譲歩することで合意に至った。法案には、国民の大半を対象とする一人当たり600ドルの小切手支給や来年3月までの連邦失業給付の週300ドル上乗せ、さらに学校や中小企業、ワクチン配布への支援、などが盛り込まれた。

英EUの交渉は期限の20日も合意できず

他方で、英国と欧州連合(EU)との自由貿易協定(FTA)交渉は、双方ともに妥協に応じず、合意のめどは立っていない。英国は今年1月末にEUを離脱したが、今年年末までは移行期間として、EU加盟国とほぼ同等の権限を与えられている。年末までにFTA交渉で双方が合意しそれを批准できなければ、ゼロ%の関税率が一気に上昇し、また関税手続きが始まることで、英国を中心に経済活動に大きな悪影響が生じる。

FTAの発行には英国、EUの双方での批准が必要であることから、事実上の期限は年末よりも早くくる。欧州議会は、20日24時までに合意文書を受け取らなければ、1月1日にFTA協定が発効するように年内に議決するのは無理と伝えていた。ところが、最終期限とされた20日も、合意できぬままに過ぎてしまった。これが、英国での新型コロナウイルス変異種の拡大への懸念と相まって、足もとではポンドの大幅安を招いている。

最大の対立点である漁業権は英国にとって国家主権回復の象徴

両者間で残る最大の対立点は、英海域でのEU漁船の漁業権の扱いである。EU加盟国は、割り当てられた漁獲の上限のもとで、他国の排他的経済水域(EEZ)でも漁ができる。移行期間の現在では、英海域でも同様である。

移行期間後には、英国はEUと毎年交渉してEU加盟国の英海域での漁獲割り当てを決めるという考えを当初主張した。段階的に漁獲割り当てを削減し、英国の権利を取り戻す狙いであった。

他方でEU側は、移行期間後も現状維持、つまりEU加盟国が現状の漁獲割り当てのもと英海域で自由に操業をできることを主張した。その後、両者は多少の歩み寄りを見せたが、ブルームバーグの報道によると、現時点でも、EUは漁獲割当量の25%削減、英国は60%の削減を主張しており、依然隔たりは大きい。英国にとって、英海域での漁獲権の見直しは、国家主権回復の象徴なのである。それゆえに、大きく譲歩はできない。

交渉が決裂すれば、EU漁船は英海域に一切入れなくなる可能性がある。他方、それに対してEUが報復関税を課すことで、英国からEUへの水産物の輸出が大きな打撃を受ける可能性もある。

FTAの暫定発行という秘策も

欧州議会が期限とした20日が過ぎ、双方がFTAで合意できたとしても来年初めの発行が難しくなっている中でも、英国とEUはなおも交渉を続けている。これはある秘策を念頭に置いているのではないか。それは、年内までにFTAの合意が成立すれば、それを暫定的に発効させ、欧州議会の批准を後回しにするというものだ。欧州議員らの強い反発は必至であるが、大きな混乱を回避することができる。

この場合、FTA合意の本当の期限は年末となる。金融市場のこのシナリオになお期待をつないでいるだろう。足もとで英国は、漁獲量割り当ての削減率の要求を60%から3分の1まで縮小するという譲歩案を示しているとの報道もある。

それでも残された日数は10日程度しかない。年末までにFTAの合意がなされなければ、「合意なき離脱」となり、年明けから金融市場は大荒れとなる可能性がある。波乱の年明けも覚悟しておく必要があるだろう。

(参考資料)
"Congress Reaches Final Agreement on Pandemic Relief", Wall Street Journal, December 21st. 2020
"Senate Leaders Clear Last Hurdle on Covid-19 Package", Wall Street Journal, December 21st. 2020
「英EU交渉、なお決着つかず 議会批准、日程厳しく」、日本経済新聞電子版、2020年12月21日
「英EU、暫定発効か決裂か FTA交渉正念場 漁業権で激しい攻防」、産経新聞、2020年12月21日
「英EU、FTA交渉 英首相「主権奪還」に執念 背景に「チャーチルへの心酔」」、産経新聞、2020年12月21日

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