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「コロナで巣ごもり投資が増えた」は本当か?

2021/10/07

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主要ネット証券における口座数の激増をどう読むか?

コロナ禍における金融市場の動向として、若者を中心にネット証券の利用が進む動きに注目が集まっている。新規の口座開設数の急増を取り上げたり、個人投資家の裾野の広がりを指摘したりする報道も多い。しかし、それが本当に個人による投資の増加、市場の拡大につながっているのだろうか。データを丹念に追ってみると、どうも違う印象を受ける。

図表にある、ネット証券各社が公表した口座数(a)と、日本証券業協会(以下、日証協)が公表する業界全体の証券口座数(b)を比べてみよう。まず、ネット証券各社の公表値をみると、確かに伸びが著しい。コロナ前を19年3月末とすると、そこから2年の間に5社合計で426万口座も伸びている。

他方で、日証協公表値を見ると、業界全体ではコロナ前との比較で310万口座の伸びに留まっている。ネット証券の各社発表値の合計(+426万口座)が業界全体の数値(+310万口座)を上回ってしまう理由は、「口座」の定義が異なるためだ。具体的には、日証協が公表する口座は、「保護預かりがある口座」と定義されており、株式や投信といった有価証券が実際に保有されている口座(以下、稼働口座)を指す。これに対してネット証券各社の公表値は、単に「証券口座」とされているケースがほとんどであり、「開設された後、使われていない口座」(以下、未稼働口座)も含んだ数値となっている。

おそらく、ここから推察される事実として、ネット証券では確かに口座数が伸びているものの、そのうちかなりの部分が未稼働口座のまま放置されている可能性が高いのではないか。ネット証券各社が、キックバック等のキャンペーンを展開していることからも分かるように、稼働か未稼働かに関係なく、「新規口座獲得数」を重要なKPIにしていることは間違いないだろう。筆者は各社のそのような判断や施策の有効性を否定する意図は全くない。ただ、ここで強調したかったことは、市場全体の視点で見た時に、「新規口座数の伸び」だけを捉えて、「投資や資産形成の裾野が広がっている」と解釈するのはミスリーディングではないか、という点である。

株主数でみた投資人口の増加も勢いを欠く

市場は全体として拡大しているのかという観点から、再び図表に戻り、日証協が公表する稼働口座数の推移(b)と、証券保管振替機構(以下、ほふり)が公表する個人株主数の推移(c)をみてみよう。コロナ前の19年3月末と21年3月末を比較すると、稼働口座数が310万口座増加しているのに対し、株主数は69万人の増加に留まっている。この乖離をどう解釈するかだが、一人の人が複数の証券会社に口座を開設する動きが増えたと考えるのが順当だろう。

市場全体では、稼働口座数の伸びほどには個人投資家の「人数」は伸びていないし、絶対数でみても1,400万人と、人口比で10%強に留まっている。さらにこの1,400万人のうち、10代・20代・30代は合計で165万人でしかなく、投資人口全体の年齢分布は依然として中高年層に偏っている。

もっとも、本稿ではデータの制約上、株主数=投資家数と捉えているが、これには批判もあるだろう。「株式は保有していないが投資信託は保有している人」をカウントできていないからである。

実際、日本銀行の「資金循環統計」によれば、2020年度は年間を通して個人部門は投資信託を3.3兆円買い越しているが、ネットで資金流入となるのは、2017年度以来のことである。1兆円を超えるのは、2015年度以来だ。この事実だけみると投信保有は広がりを見せていると解釈したくなる。ただ、この点についても単純に広がりを示しているものとは受けとめ難い。

投資信託協会のアンケート調査によれば、投信保有者の割合は2019年が22.3%、2020年が23.4%と、それほど増加しているようには見えない。また、野村アセットマネジメントが実施する「投資信託に関する意識調査」でも、投信保有者の割合が継続的に調査されており、2019年は11.6%、2020年は11.9%であり、2020年にかけて著しく増加している傾向は確認できない。2つのアンケートで投信保有の割合が乖離する理由は、調査対象サンプルの属性が影響していると考えられるが、いずれにしろ、「資金循環統計」が示す投信への資金流入超は、未経験者ではなく経験者が追加的に投資信託へ資金投入したためと判断するのが妥当だろう。

図表 証券口座数と個人株主数の推移

執筆者情報

  • 竹端 克利

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    上級研究員

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