フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 12月FOMCのMinutes―Medium-term constructive view

12月FOMCのMinutes―Medium-term constructive view

2021/01/07

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

はじめに

12月FOMCでは、足許のCovid-19の感染拡大による影響に対して懸念が示された一方、中期的には景気と物価の双方に関して総じてより前向きな見方が共有された。

景気と物価の判断

FOMCメンバーは、足許でのCovid-19感染者数の拡大とその抑制策が当面の経済を下押しすることに懸念を示しつつも、これまでの景気回復が当初予想に比べて底堅さを示したとの理解を共有した。また、ワクチンの早期導入が、中期的に前向きな見通しにとって望ましい要素であるとの考えを示した。

主な需要項目のうち消費は、財政支援や失業給付の拡大もあって、耐久財消費を中心に力強く拡大している一方、サービス支出の抑制等により歴史的に高水準の貯蓄増加を招いていると評価した。もっとも、足許でのCovid-19感染者の拡大によるサービス支出の減速が高頻度データに表れている点や、失業給付の拡大や債務返済猶予といった経済対策の終了に伴い、特に低所得家計に対して大きな打撃を与えている点も指摘された。

企業の設備投資も、耐久財の受注や出荷からみて一層拡大し、低水準の在庫を通じて生産の回復に寄与するとの見方を示した。ただし、娯楽や旅行、宿泊といった部門の動きは依然として鈍いなど、回復にはばらつきが大きい点も確認した。同様に、大企業の状況が好転した一方、経済対策に対する依存度の大きい中小企業の脆弱性への懸念も示された。

この間、雇用の改善は足許で減速しているが、3~4月に生じた2200万人の失業の半分以上を取り戻すなど、当初予想よりも早いペースでの回復を確認するとともに、中期的な改善の継続に期待を示した。ただし、数名(several)のメンバーは、Covid-19感染への懸念やオンライン授業に伴う育児などのため、労働参加率が以前より低い点を指摘した。

一方、物価に関してFOMCメンバーは、足許の消費者物価がsocial distancingの影響を受けるサービスを中心に軟化している点を確認した。もっとも、ワクチン接種の普及と経済活動の回復に伴って、2021年にはそうした下方圧力が後退し始めるとの見方が広く(generally)共有された。

また、2名(a couple of)のメンバーが、ITイノベーションによるビジネスモデルの変化や企業の価格設定力の低下による下方圧力が残存するとの見方を示したのに対し、メンバー全体としては金融緩和の継続によってインフレ率は上昇していくとの見方を維持した。

金融環境の評価

FOMCメンバーは、政策効果もあって総じて緩和的な金融環境が維持されているとの評価を確認した。ただし、資本市場にアクセスしうる大企業が株価の上昇やクレジットスプレッドの縮小のメリットを享受している一方、銀行貸出に依存する中小企業や家計はタイトな与信状況に直面しているとの見方を示した。

特に中小企業の金融環境がタイトであることへの懸念が示されたほか、2名(a couple of)のメンバーからは、これまでのところ不良債権が顕著に増加していないのは、CARES法による支援の効果、ないしは倒産やデフォルトを伴わない廃業による面が大きいとの指摘もみられ、一部のメンバーからは一連の企業金融支援策が12月末で終了することの影響に懸念が示された。

リスクの評価

FOMCメンバーは、経済の先行きがCovid-19の展開に依然として大きく依存しており、不透明性が高い点を確認した。これに対し、ワクチンの開発が中期的な下方リスクを低下させた結果、リスクバランスが以前よりも改善したと評価する一方、ワクチンの普及ペースやワクチンに対する人々の対応に不透明性が残る点も認めた。

その上で、景気回復に対する下方リスクの要因として、時宜を得た追加財政支出が実現しない可能性、Covid-19感染の一層の悪化と感染抑制策の強化の可能性、企業破綻や失業の深刻化の可能性等を挙げた。これに対し上方リスクの要因としては、広範囲なワクチン接種とsocial distancingの後退に伴うpent-up需要の顕在化の可能性、人々の予想以上に早い労働市場への復帰の可能性、予想以上に大規模な財政出動の可能性等が挙げられた。

この間、物価に関しても、以前よりもリスクバランスが改善したとの見方が示された一方、ほとんど(most)のメンバーは依然としてリスクが下方に傾いているとの見方を維持した。

政策判断

12月FOMCは、金融緩和の現状維持を決定した一方、資産買入れに関する運営方針の明確化を全会一致で決定した。この決定に関しては、政策金利に関するフォワードガイダンスとの整合性の向上や、政策目標の達成における資産買入れの役割の明確化、経済の予期せざる展開に対するバランスシート運営の柔軟性の強調といった意味合いが指摘された。

その上で多く(a number of)のメンバーは、「政策目標の達成に向けて一層顕著に前進」の条件を取り上げたが、その判断基準は幅広く、定性的であり、特定の数値によるクライテリアまたは閾値ではないとの理解を示した。もっとも、多く(various)のメンバーは、買入れペースを変化させることが可能と判断する十分以前に、FOMCとして、政策目標に対する実際の前進やその見込みを明確に発信することが必要との考えも示した。

実際の買入れペースについても全会一致で決定されたが、2名(a couple of)のメンバーはより長期の国債購入に対する支持を表明した。また、数名(some)のメンバーは、政策目標の達成にとって必要であれば、資産買入れのペースを引き上げたり、より長期の国債を買い入れたりすることで、資産買入れの強化を図るべきと主張した。これに対し、数名(a few)のメンバーは、資産買入れの効果とともに、リスクやコストとのバランスについても評価を続けることの重要性を指摘した。

最後にFOMCメンバーは、「政策目標の達成に向けて一層顕著に前進」の条件が達成された場合の資産買入れの運営について議論し、多くの(a number of)のメンバーは、そこから緩やかな減速(tapering)を開始した後、2013~14年と同様なパターンを辿るとの見方を示した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融イノベーション研究部

    主席研究員

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn