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1月FOMCのMinutes-Improved medium-term outlook

2021/02/18

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はじめに

前回(1月)のFOMCでは、足許で雇用の回復が鈍化した点を確認しつつ、ワクチン接種によるCovid-19の収束への期待や追加的な経済対策に対する期待を背景に、米国経済の中期的な見通しは、不透明性は高いが総じて改善したとの見方が共有された。

経済情勢の評価

FOMCメンバーは、個人消費について、耐久財を中心とする財の消費と、旅行や娯楽を中心とするサービスの消費とが顕著に乖離している点を確認しつつも、財政支出もあって、今年の見通しが改善したとの見方を示した。また、昨年の貯蓄増が歴史的高水準であったことを指摘したほか、低金利環境の下で住宅の建設と販売が引続き力強い点も指摘した。

設備投資については、機械設備が好調さを維持した一方、非居住用構造物は引続き弱い点を指摘した。また、製造業の生産が高水準である点を確認しつつ、サプライチェーンの制約やCovid-19に伴う労働者不足等に直面している点も指摘した。併せて、 Covid-19問題に対し、大企業と中小企業で適応度合いに格差が生じているとの指摘もみられた。

この間、FOMCメンバーは、Covid-19による影響の深刻な部門での大量解雇によって、雇用の改善が鈍化している点を確認した。また、マクロの雇用環境は昨年を通じて改善したが、Covid-19の感染リスクや子弟の養育負担等のために労働参加率が低下しており、こうした人々が労働市場に回帰すれば失業が増加するとの懸念も示された。

これらの議論を踏まえ、FOMCメンバーは、実質GDP成長率と雇用の見通しは改善したが、不透明性は依然として高い点を確認した。つまり、Covid-19が、変異種の発生やワクチン接種の忌避、ワクチン生産の遅延等を含めて、依然として大きな下方リスクであるとの見方を共有した。一方で、予想以上の規模の財政支出や、家計による予想以上の貯蓄の取り崩し、ワクチン接種の拡大によるソーシャルディスタンスの解除に伴う予想以上の雇用拡大といった上方リスクも指摘した。

物価情勢の評価

FOMCメンバーは、足許のインフレ率が依然として目標から程遠い点を確認する一方、短期的には上昇する可能性を指摘した。その背景としては、サプライチェーンの制約の影響を受ける財の生産低下や、企業活動が急速に正常化することに伴う一部の財価格の上昇などを挙げた。

その上で、数名(some)のメンバーが、本年春にはPCEインフレ率が一時的に2%を超える可能性を指摘した一方、多くの(many)メンバーは、相対価格の一時的な上昇と基調的なインフレを区別することの重要性を指摘するとともに、前者の現象はインフレ率を上昇させるとしても持続的ではないとの考えを示した。

この間、市場ベースのインフレ期待が、昨年春の極めて低位な状況から若干改善したことも、今後のインフレ率が緩やかに高まるとの見方と整合的であるとの指摘もみられたほか、サーベイベースのインフレ期待には大きな変化がないことも確認された。

こうした議論を踏まえて、FOMCメンバーは、物価の見通しが昨年中に比べて上下によりバランスしたが、依然として下方に傾いているとの見方を概ね共有した。サプライチェーン制約による価格上昇リスクより、Covid-19の影響の大きい部門での価格低下のリスクが大きいとの判断である。

金融システム

前回(1月)のFOMCでは、執行部による金融システムの評価が行われたが、通常より詳細な内容であった印象を受ける。もちろん、この間の金融政策の焦点が企業や家計に対する資金の流れの確保であっただけに、政策効果の検証は必要ではある。

具体的には、長期金利の上昇が財政支出の拡大と景気見通しの好転といった要因によるとの見方や、銀行の与信姿勢が大企業向けないしスコアの良好な個人向けとそれ以外で大きく異なるとの評価、中小企業の資金調達が依然として厳しいとの判断などが注目される。その上で、執行部は金融システムの脆弱性や企業と家計の負債を「notable」、資産価格のバリュエーションやヘッジファンドのレバレッジを「elevated」、ミューチュアルファンドによる資金の期間変換に顕著なリスクがあると各々評価した。

これを受けて、多くの(a number of)のFOMCメンバーがコメントした。このうち銀行部門に関しては、自己資本の盤石さやストレステストの結果を踏まえて、安定性を評価する意見がみられた一方、引続き慎重な見方を維持すべきとの指摘もあった。

一方、数名(several)のメンバーは、銀行以外の金融システムの脆弱性を指摘した。具体的には、投資家の償還請求に対して脆弱なファンドによる資金調達の問題や、米国債市場の機能低下などであり、これらのために昨年春にはFRBによる大規模な市場介入が必要となった点が確認された。

また、株価のバリュエーションの一層の上昇や、株式の新規公開件数の高水準での推移、電子プラットフォームを通じた個人投資家の取引による株価への影響等に関するコメントや、商業不動産が価格の下落と需要の減退に直面するとのコメントもみられた。

政策運営

FOMCメンバーは、上記のような中期的な見通しの改善に拘らず、物価や雇用が目標からほど遠い状況にあるほか、今後の不透明性も高いことを確認して、全会一致で金融政策の現状維持を決定した。

今後についても、景気の回復を促進する上で高度に緩和的なスタンスの維持が不可欠と判断し、政策金利と資産買入れの運営方針を堅持することで合意した。なかでもこれらの双方のフォワードガイダンスについては、経済の改善が停滞した場合には、政策金利の現状維持が延長され、資産買入れが強化されるとの期待を生じさせる点で、現在の経済環境によく適応しているとの理解が示された。

加えて、こうしたフォワードガイダンスは人々(public)に適切に理解されているとの見方を示すとともに、インフレ率が一時的に2%目標を緩やかに上回ったかどうかを判断する上では、原油価格下落の影響の剥落やサプライチェーン制約の影響を受ける財の価格上昇といった一時的要因を除くことの重要性を確認した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融イノベーション研究部

    主席研究員

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