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パウエル議長による議会証言のポイント

2021/07/16

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はじめに

FRBの「金融政策報告」に関するパウエル議長による議会証言(7月14日、15日)では、民主、共和両党の議員からインフレの加速と住宅価格の高騰に懸念が示された。一方、中央銀行デジタル通貨(CBDC)についても、意義や方向性に関する質問が示された。

物価情勢の評価と対応

下院のワグナー議員や上院のトゥーミー、ハガティの各議員などのように、共和党側はインフレの加速が一時的であるとのFRBの説明に疑問を呈した。

パウエル議長は、足許のインフレ率が想定以上に高い点を認めつつも、需要の急速な回復に伴う反動や供給制約といった特定の要因に起因する面が多いという「金融政策報告」での分析に即して、従来の理解を踏襲した。

共和党側の議論は、①バイデン政権の財政拡張路線と②FRBの資産買入れの双方への批判に基づく面が強い。パウエル議長は、 ①は議会が決めることとしてコメントを避けた一方、②については、金融緩和の目的は中長期のインフレ期待をアンカーすることにあり、フォワードガイダンスに即して政策を運営する考えを確認した

その上で②に関しては、労働市場と関連付ける議論もみられた。共和党側からは、上記のワグナー議員に加え、ホリングスワース 、 ゴンザレスの両議員(いずれも下院)なども、スキルや地域間でのミスマッチのために雇用の改善には限界があるので、広範な雇用の実現を目指すことが過剰な金融緩和を招くと主張した。

これに対しパウエル議長は、デュアルマンデートは議会によってFRBに託された目標である点を確認した上で、時間はかかるが労働参加率をCovid-19前に戻すことは可能と主張した。

この間、民主党側からも上院のブラウン議員のように、インフレの加速が家計の生活費を上昇させているとの懸念が示された。もちろん、この間の巨額の財政支援を考慮すれば、マクロの家計所得は潤沢であるが、FRBも認めるように雇用の喪失が低所得者に偏っているとすれば、所得分配上は無視しえない問題となる。

このほか、民主党のメネンデス議員(上院)からは、特に若年層については移民の方が労働参加率が高い特性があったという興味深い指摘もあった。もちろん、前政権への批判という政治的な背景はあろうが、米国も高齢化が進むだけに労働力の確保を考えるべきとか、質の高いChild careの整備を通じて女性の労働参加環境を好転させるべきとの主張には合理性も感じられる。

住宅価格の評価と対応

下院のウォーターズ、ミークスの両議員や、上院のワーナー議員などのように民主党側は、住宅価格の高騰が主として供給制約にあるとのFRBの説明に疑問を示した。

パウエル議長は、金融緩和も一因であると認めたほか、家計による郊外居住指向の強まりや良好なバランスシート(貯蓄の増加)といった需要面の要因も大きいとしつつも、木材や職人の不足による面も大きく、徐々に問題は解消するとの見方を確認した。

民主党側の問題意識は、住宅価格の高騰に伴って低所得層による取得が困難となり、家計の間での資産格差が拡大していく点にある。もっとも、対応策に関しては、ミークス議員のようにFRBによるMBS買入れの見直しを示唆する意見がみられた一方で、ウォーターズ議員のように、政府がaffordableな住宅の供給を増加させるべきとの意見も示された。

後者は、バイデン政権によるインフラ整備策とも関係しており、その意味で政治的な背景もあろうし、パウエル議長も住宅供給に関する政策はFRBの担当領域ではないと説明した。

これに対し共和党側からは、トゥーミー議員(上院)のように、住宅価格の高騰が金融システムの不安定化に繋がるとの懸念が示された。このような主張は、既にみたFRBによる資産買入れへの批判に裏打ちされており、資産買入れのテーパリングの開始条件である「政策目標の達成に向けた更なる顕著な前進」はいつになったら達成されるかという指摘がなされた。

パウエル議長は、前回(6月)のFOMCでは、前進したがまだ達成されていないと評価したことを説明した上で、今後のFOMC会合でも順次評価を行った上で、条件が満たされれば、十分前以て予告した上で資産買入れの見直しを行う方針を確認した。

中央銀行デジタル通貨に対するスタンス

物価や住宅価格以外に、議会証言で取り上げられる問題としては、CRAの見直しや銀行規制の緩和の巻き戻しといった民主党側に重要な案件が想定される。

実際、下院のミークス議員や上院のワーナー議員(いずれも民主党)などは、これらを取り上げたが、パウエル議長は前者は他の当局と協力しつつ努力する点、後者は銀行の自己資本はむしろ強化された点を回答するに止まった。

その上で筆者にとって意外であったのは、中央銀行デジタル通貨(CBDC)を取り上げる議員がみられた点である。

共和党のマクヘンリー議員(下院)がFRBが間もなく公表するスタンスペーパーの内容を質したのに対し、パウエル議長は、CBDCに限らずデジタル通貨全体に関する考え方を明らかにする点を説明した上で、CBDCについては米国の枠組みの下でメリットとコストの双方を示すことを強調した。

一方、民主党のリンチ議員(下院)は、ボストン連銀を含むいくつかの地区連銀が、外部機関とも協力しつつCBDCの調査研究を進めている点を評価しつつ、海外に比べてそのペースに懸念があると指摘し、将来、米ドルの国際通貨のとしての地位が脅かされることへの懸念を示した。

パウエル議長は、FRBとしても技術と政策の両面で調査研究を加速していると説明した上で、米ドルの国際通貨としての地位が失われることは心配していないと指摘した。

上院ではトゥーミー議員(共和党)がこの問題を取り上げ、ステーブルコイン(発行者が法定通貨との交換を保証した暗号通貨)があればCBDCは不要ではないかとの考えを示唆した。

これに対しパウエル議長は、ステーブルコインが銀行預金やMMFと同様な機能を果たすのであれば、同様な規制や監督が必要との考えを確認した。一方、FRBとしてCBDCの発行を決めた訳ではなく、実際の発行には利用者による幅広い支持と議会による賛同が望ましいと付言した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    主席研究員

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