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7月FOMCのMinutes-Start this year

2021/08/19

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はじめに

7月のFOMCでは、米国経済が本年後半も着実に成長するとの見方を共有した上で、ほとんど(most)のメンバーが資産買入れのテーパリングを年内に開始しうるとの見込みを示した。

経済情勢の評価

FOMCメンバーは米国経済が本年前半に力強く拡大したことを確認するとともに、経済活動の再開の継続や緩和的な金融環境、供給制約の緩やかな緩和等に支えられて、本年後半も好調を維持するとの見方を共有した。

このうち消費は、既往の金融・財政政策の効果に加えて、高水準の貯蓄やワクチン接種の進捗により拡大を続けているほか、住宅需要も引続き強いが、資材供給と住宅在庫の不足によって抑制されていると評価した。企業活動も、Covid-19による影響が深刻であった業種の回復を指摘した一方、工業生産は資材や労働の制約とサプライチェーンの問題に影響されている点を確認した。

労働市場でも雇用者増の継続を確認した一方、失業率はCovid-19前の水準を回復しておらず、労働参加率や雇用人口比率に変化がみられず、年齢や所得、業種によって雇用改善にもばらつきがある点などを踏まえ、FOMCの政策目標である「幅広く包括的な」最大雇用は達成されていないと指摘した。

その上で、多く(many)のメンバーは、経済活動に関する今後のリスクは依然として高いと評価し、理由としてワクチン接種の減速や変異種の感染拡大を挙げたほか、多数(a number of)のメンバーはサプライチェーンの問題や労働力の確保の困難さによって、景気の先行きの評価が難しくなっている点を指摘した。

物価情勢の評価

FOMCメンバーは、足許でインフレ率が加速している点を確認し、当面はこうした状況が続くとの見方を共有した。また、本年のインフレ率が想定以上であった点を認め、消費需要の急騰とともに供給制約と労働力確保の困難が要因との見方を示した。

一方で、インフレ率の加速が一部(handful of)の領域に限定され、これらは一時的な供給制約の影響や、Covid-19による影響が深刻であったことに伴う価格反発の大きさといった特性を有するとの見方も示された。また、賃金上昇率は足許で減速しているが、地区連銀総裁からは、労働力確保の困難さが賃金上昇圧力につながっているとの見方も示された。

今後についてFOMCメンバーは、一時的要因の解消に伴って来年は減速するとの見方を概ね(generally)共有したが、数名(several)のメンバーは、サプライチェーンの問題が予想より深刻で投入コストが上昇し続けるため、来年もインフレ圧力が残存するとの見方を示した。

インフレ期待については、数名(some)のメンバーが長期の期待がFOMCの政策目標と整合的との見方を示したが、別な数名(several)のメンバーはサーベイベースの長期の期待が政策目標を超えて上昇したとの懸念を示した。もっとも、さらに別なメンバー(others)は、物価連動国債の利回りから推計されるインフレ期待が足許で顕著に低下した点を挙げ、市場ではインフレの加速が一時的との見方が浸透したとの理解を示した。

今後のリスクについては、数名(some)のメンバーがサプライチェーンの問題や労働力確保の困難さが予想よりも長期化するために、インフレ率には上方リスクがあるとの見方を示した。

資産買入れの運営

この問題については、議事要旨からみる限り、通常の政策判断とは独立したパートとして本格的な議論が行われたようだ。

まず執行部が計量分析をもとに、資産買入れによる金融経済面の効果が、中央銀行と民間投資家の資産保有のバランスとそれに伴うterm premiumの変化によって生じているという、日銀が政策運営の見直しで示したのと同様な見方を示した。政策効果がストックの資産保有に起因するのであれば、テーパリングを行っても影響は抑制されることになる。

もっとも執行部も、計量分析では捕捉しえない要素がある点も認め、テーパリングの開始が、FRBによる経済見通しの好転を示唆するとか、利上げのパスに影響するといった理解を招くことで、金融経済に影響を与えうる点も指摘した。

これを受けて、FOMCメンバーの全員が最大雇用と物価安定の達成に向けて前進を続けた点を確認した一方、ほとんど(most)のメンバーはテーパリングの開始条件である「更なる顕著な前進」が雇用面で満たされていないと判断した。また、ほとんど(most)のメンバーは物価面では既に条件を満たしたと評価したが、数名(a few)のメンバーはインフレ率の上昇が一時的である可能性や市場ベースのインフレ期待が低下している点に注意を示した。

その上でほとんど(most)のメンバーは、米国経済が見通し通りに推移すれば、年内にテーパリングを開始することが適当となりうるとの判断を示した一方、数名(several)のメンバーは条件達成まで接近していないとして、来年初頭の開始が適当との見方を示した。

その場合のペースに関しては、多く(many)のメンバーが、利上げの条件が満たされる前に資産買入れを終了しうることのメリットを指摘した一方、テーパリングの開始と利上げ開始との条件は別なものであることも確認された。また、数名(several)のメンバーは、テーパリングを早期に開始することでペースを緩やかにし、金融環境への影響を抑制するメリットを挙げた。

構成に関しては、ほとんど(most)のメンバーが国債とMBSの買入れを比例的かつ同時に減らすべきと主張し、その理由として、双方ともに金融環境や金融政策の波及への効果は類似しており、特定部門への資金配分を意図していない点を挙げた。もっとも、この点に関しては更なる議論の必要性も指摘され、数名(several)のメンバーは、FRBの買入れが住宅市場の過熱を支えているとの見方がある点を踏まえ、MBSの減少を優先すべきと主張した。

最後に多く(many)のメンバーは、テーパリングを開始する際には、利上げ開始との間で時間的な意味で形式的な関係はない点を明確化すべきと指摘したほか、数名(a few)のメンバーは、テーパリングの開始決定が、FRBの金融政策の戦略(平均インフレ目標)に照らして早計と評価されるリスクに言及した。また、数名(several)のメンバーは、今後のCovid-19の展開によっては、資産買入れペースに関する方針を再考する必要が生ずるとの見方を示した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    主席研究員

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