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9月FOMCのMinutes-The middle of next year

2021/10/14

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はじめに

9月のFOMCは、資産買入れのテーパリングを開始する条件が間もなく満たされる見通しを声明文で明らかにしていたが、議事要旨によると、均等なペースで買入れを圧縮した後、2022年中盤に買入れを終了する方針を多くのメンバーが支持していた。

経済情勢の評価

FOMCメンバーは、経済活動の拡大が本年前半に比べて減速した点を確認し、供給制約の想定以上の深刻化や長期化とデルタ株の感染などを踏まえ、本年の成長率見通しをやや引き下げた。

このうち家計支出は、デルタ株の拡大によるサービス支出の抑制や、供給制約による在庫不足と価格上昇(特に自動車)のため足許で減速しているが、高水準の貯蓄やpent-up demandの顕在化、ワクチン接種の加速等により今後も高水準で推移するとの見方を維持した。

企業も、多くの業種がサプライチェーンの制約や労働不足の中で需要の充足に苦慮し、海外のCovid-19の感染拡大と企業活動の停止が事態を悪化させ、小売業も港湾の混雑や陸上交通の遅延の影響を受けている点が指摘された。地区連銀総裁からは、供給制約の完全な解消は来年以降との見方が報告された。

雇用の増加も、8月はデルタ株の拡大による影響が深刻な部門を中心に減速した点を確認した。一方、地区連銀総裁は、雇用の困難さを報告し、企業が生産時間や規模の縮小で対応するほか、賃金を含む報酬の引上げで雇用確保を図っているとした。

学校の授業再開や失業保険の割増給付の終了に拘らず労働参加率が改善しなかった点には、感染再拡大への不安や授業再開の混乱等の要因が指摘されたが、一般に労働参加率の改善は遅延するとの指摘もみられた。今後についても、Covid-19に伴う大量の退職等が長期化し回復は困難との意見と、Covid-19に対する不安が払拭されれば回復は可能との意見が示された。

その上で、多く(a number of)のメンバーが景気の先行きに不透明性が高い点を確認しつつも、Covid-19や供給制約、財政運営等の不透明性は上下双方の意味合いを持つとして、リスクは上下に概ねバランスしていると評価した。

物価情勢の評価

FOMCメンバーは、財と労働の供給制約が予想以上に大きくかつ継続的であるとして、インフレ率の見通しを上方修正した。

その上で、企業や家計の長期インフレ期待への影響や価格上昇の広がりに懸念が示された一方、インフレ率の上昇がCovid-19の影響を受ける一部の領域での供給制約による面が大きいとし、一部には価格安定の兆しがみられるとの反論も示された。また、多く(many)のメンバーが住宅価格の上昇による帰属家賃への影響に注目すべきと指摘したほか、賃金上昇の物価に対する波及も現在は明確でないが注視すべきとの指摘もみられた。

インフレ期待に関しては、市場ベースの長期の期待はインフレ目標と概ね整合的と評価した一方、多く(many)のメンバーがFRBNYやミシガン大によるサーベイ結果が家計の短期のインフレ期待が顕著に上昇した点を確認した。もっとも後者は、足許のインフレに影響されやすい点も指摘された。

先行きについては、ほとんど(most)のメンバーが上方リスクが大きいと評価し、供給制約と労働不足が想定以上に長期化し、物価や賃金に持続的な影響を与える恐れを指摘した。

金融政策の運営

9月のFOMCは金融政策の現状維持を決定した一方、資産買入れの今後のテーパリングが議論の焦点となった。

テーパリングの開始条件のうち、物価についてはほとんど(most)のメンバーが既に達成済ないし間もなく達成と評価した。雇用については、多く(a number of)のメンバーが条件は未達成だが、今後の景気が概ね想定通り進めば、間もなく達成されると評価した。

FOMCメンバーは雇用率、失業率、失業保険申請件数、未充足求人、賃金上昇、雇用増加と、それらの総合指標の改善状況を考慮した上で、数名(some)のメンバーが労働参加率の回復の遅延を指摘したが、多く(many)のメンバーは8月の雇用増加は予想を下回ったものの雇用の改善は継続していると評価した。

もっとも、他の多く(a number of other)のメンバーは、雇用の条件も既に満たされたと主張し、うち数名(some)は、雇用の改善の支障は需要不足でないと指摘したほか、金融緩和を続けても問題は改善せず、効果と副作用のバランスも悪化し始めるとの懸念を示した。その上で結果的には、資産買入れの減速に向けた条件が間もなく満たされるとの声明文を全会一致で支持した。

テーパリングのペースについては、7月FOMCの議論をもとに執行部が作成した案-説明しやすく、緩やかな減速で、来年央に買入れを終了するもの-として、国債は100億ドル/月、MBSは毎月50億ドル/月のペースで均等に減速する内容が議論された。

FOMCメンバーの多く(generally)はこの案を明確かつ適切と評価したほか、2名(a couple of)のメンバーは、事前に示すことで市場への影響を抑制しうると指摘した。一方、数名(some)のメンバーは、本案よりも早いペースが望ましいとの考えを示した。また、多く(generally)のメンバーは来年央の買入れ終了が適切とし、次回会合(11月)でテーパリングを決定した場合、11月中旬または12月中旬から実践に移す点を確認した。

ただし、FOMCメンバーも、テーパリングは物価や雇用の実績に基づいて運営する方針に即して、経済情勢が予想と大きく異なった際にはペースを調整しうる点を確認するとともに、多く(many)のメンバーが、景気や物価の上下双方のリスクについて、先に見たような要素を確認した。

この間、利上げの開始については条件が異なり、テーパリングが金利政策に直接の示唆を有する訳ではない点を確認した。

その上で、数名(several)のメンバーは、完全雇用の達成に時間を要するため物価への下押しが続くとの見方を示し、政策金利がELB近傍にある下で平均2%のインフレを維持し、政策運営への信認を強化することが重要な課題になると指摘した。これに対し、多く(a number of)のメンバーは、雇用と物価に関する利上げの条件が来年末までに満たされると判断し、来年中の利上げの可能性を引き上げたほか、数名(some)のメンバーは来年もインフレ率が高止まる可能性を指摘した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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