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パウエル議長の議会証言-12月FOMCへの意味合い

2021/12/01

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はじめに

FRBのパウエル議長がイエレン財務長官とともに出席した連邦議会上院(銀行、住宅、都市問題委員会)での公聴会(CARES法による危機対策のレビュー)での議論の焦点は、連邦債務上限の再引上げを巡る民主、共和両党の駆け引きであった。

しかし、パウエル議長がインフレの見通しと資産買入れの運営について発言した内容が米国市場の注目を集めている。12月FOMCを展望するために、その意味合いを検討しておきたい。

インフレの見通し

米国市場が公聴会の報道で注目した第一の点は、パウエル議長が、共和党のトゥーミー議員の質問に対し、(高インフレが)「一時的」との表現を止める時が来たとの考えを示唆したことである。この見出しだけをみれば、パウエル議長が高インフレの長期化見通しを認めたとの印象を受けることは自然である。

ただし、パウエル議長はその理由として、「一時的」という表現が受け手によって様々な理解を生んだ問題を指摘しており、FRBとしての表現の意図を明確化することが必要との考えも指摘している。

あわせて、冒頭説明や共和党のクラポ議員への回答などにおいては、正確な時期には不透明性が残るものの、来年の中盤にはインフレ率が減速するとの見方を確認しているほか、FRB固有ではなく、多くの(外部の)予想とも一致している点も強調している。

FOMCで議論され、パウエル議長も認めてきたように、既に高インフレは当初の想定以上に続いており、「一時的」という表現も既に不適切になっている。そのような意味合いを込めて「一時的」という表現を止めることは適切である一方、先行きに対する意味合いを過大評価することには慎重である必要もある。

インフレを巡る政治情勢

今回の公聴会では、民主党と共和党が現在の高インフレを各々別な視点から懸念している点も確認された。

民主党は、ブラウン委員長に代表されるように、賃金上昇以上に生活費が上昇することで人々の経済厚生が悪化する点を問題視し、その影響が経済的弱者に集中する点に懸念を示した。 パウエル議長の冒頭説明もこれに近い考え方を示しており、インフレの中でも食費、住居費、交通費の上昇に焦点を当てた。

これに対し共和党は、トゥーミー議員をはじめ多くの議員が、バイデン政権による数次にわたる財政支出が総需要の増加を通じて高インフレを招いた点を批判した。同時に、エネルギー価格の高騰については、パイプライン建設へのスタンスなどバイデン政権の環境政策が供給面から影響を及ぼしたとの議論を展開した。

しかし、両党のこうした議論がFRBの政策運営に顕著な影響を与えることは考えにくい。

まず、民主党の懸念には、経済的弱者に焦点を絞った所得支持がむしろ有効である。実際、イエレン財務長官も民主党のブラウン委員長への質問に答える形で、今回の追加財政支出には子弟の養育費や住居費などの面で経済的弱者を支援する措置が含まれている点を説明した。また、共和党の批判は財政政策ないしエネルギー政策に向けられたものであり、金融政策では如何ともしがたい面がある。

さらに言えば、今回の公聴会では、少なくとも民主党と共和党の有力議員がともに、パウエル議長の再任を支持する考えを明確に表明した点も印象的であった。その意味でも、両党がインフレに懸念を示したこともいわば「代理戦争」であって、FRBの政策運営への直接的な批判とは考えにくい。

テーパリングの加速

米国市場が今回の公聴会の報道で注目した第二の点は、パウエル議長が、民主党のワーナー議員の質問に答える形で、テーパリングの加速を支持する考えを明示したことである。

具体的には、パウエル議長は、11月FOMCの時点で米国経済の拡大は総じて強く、かつインフレ圧力が高まっていると認識したと説明した。その上で、パウエル議長自身の意見として、今後にテーパリングを加速することで、資産買入れを当初の予定より数か月前倒しすることが適切と考えており、この点は12月FOMCで議論されることになろうとの見通しを示した。

11月FOMCの時点でこうした意見があったことは、先日公表された議事要旨で既に明らかになっていたが、今回、パウエル議長自身が支持したことが確認されたことで、その蓋然性が大きく高まった訳である。もちろん、パウエルl議長も今後の経済指標等を見極める必要性を付言したが、ワーナー議員の追加質問に答える形で、Covid-19の新型変異種が経済に与える影響に関しては、あくまでリスクシナリオとして位置づけるとの考えも付言した。

米国市場がこの点に関する報道に大きく反応したのは、資産買入れの帰趨自体ではなく、早期の利上げ開始という含意を持つためである点は言うまでもない。来年央からの利上げが視野に入り、来年中に2~3回の利上げが今や中心的な見通しに変化することになる。

ただし、別稿でも指摘したように、資産買入れの終了から利上げの開始へと円滑に推移しうるかどうかにはいくつかの課題も残る。例えば、先に見たように、FRBと民間エコノミストの双方が予想するように来年中盤以降にインフレ率が本当に減速し始めた場合、それでも利上げを急ぐ合理性はむしろ低下する。

しかも、インフレ圧力が主として供給制約の緩和によって解消していくことを想定するのであれば、問題はより複雑である。来年には財政支出の効果も減衰していくことも想定されるだけに、利上げによって一段と需要の抑制を図るべきかという議論になろうし、政策効果の実現には時間的なラグも存在する。

今回の公聴会により引き付けて言えば、資産買入れの停止と利上げ開始とでは、政治からの支持も同じではない可能性もある。資産買入れは危機対策としては有効であったが、今や共和党にとっては市場への過剰介入として、民主党にとっては住宅を含む資産価格高騰の要因として、ともに早期の終了が必要との合意が存在する。

しかし、利上げが経済的弱者の生活を圧迫し、金融資産の価格調整を招くようであれば、民主、共和両党のパウエル議長に対する信認にも変化が生じうる。来年の政策運営にはまだ多くの課題が残っている。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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