フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 FRBのパウエル議長の記者会見-balanced approach

FRBのパウエル議長の記者会見-balanced approach

2021/12/16

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

はじめに

今回(12月)のFOMCは、インフレ圧力の高まりと雇用の一層の改善を踏まえて、現在の資産買入れの減速ペース(150億ドル/月)を来年1月から2倍に早めることを決定したほか、同時に公表されたdot chartが来年中の75bpの利上げを示唆した。

経済情勢の評価

パウエル議長の冒頭説明は、米国経済が足許で内需を中心に拡大を加速したと評価した。実際、今回改訂されたFOMCメンバーによる 見 通 し ( SEP ) は 2021 ~ 2024 年 の 実 質 GDP 成 長 率 を+5.5%→+4.0%→+2.2%→+2.0%とした。前回(9月)対比で2021年と2023年は各々0.4ppと0.3ppの下方修正になったが、2022年は0.2pp上方修正され、いずれにせよ潜在成長率を上回る動きが2023年にかけて継続するとの見方が確認された。

パウエル議長は、労働市場でも雇用の拡大と失業率の低下が進行したと前向きに評価した。新たなSEPも、2021~22年の失業率を4.3%→3.5%と、前回(9月)対比で各々0.5ppと0.3pp下方修正した。会見では多くの記者が労働市場の評価について質問した。

パウエル議長は、最大雇用は幅広い指標を参照する方針であり、 FOMCによる「判断」に基づく点を確認した。また、コロナ前とは労働供給が異なる点を強調し、最大雇用の内容が変化している可能性を示唆した。同時に、退職者や未充足求人が高水準になっている点を踏まえて、労働需要は極めて強いとの判断も確認した。

労働参加率に関しては、パウエル議長は失業保険の割増し給付の終了やCovid-19の感染減少、学校の再開等で回復すると予想していたが、回復に時間を要するとの見方に変化した点を説明した。背景としては、医療サービスを享受しにくい層を中心にCovid-19の感染懸念が強いことや子弟と高齢者の養育といった予て挙げてきた要因に加えて、株式や住宅による純資産の増加、財政出動等による貯蓄の増加といった金融面の要因も指摘した。

このほか、数名の記者がCovid-19のオミクロン株の感染拡大のリスクを質したが、パウエル議長は先行きには不透明性が残る点を認めつつ、従来に比べてワクチン接種が普及したほか、経済活動との両立に習熟してきた点を指摘するとともに、足許の総需要が強いとの判断を確認し、深刻なリスクではないとの判断を示唆した。

物価情勢の評価

改訂された新たなSEPは、2021~24年のコアPCEインフレ率を+4.4%→+2.7%→+2.3%→+2.1%と予想し、前回(9月)対比で、 2021~23年が各々0.7pp、0.4pp、0.1pp上方修正された。今回(12月)の声明文では「一時的要因」との語が削除されたが、ワクチン接種の普及と供給制約の緩和によって、景気や雇用の拡大とインフレの減速が予想されるとの見方は維持された。

パウエル議長も、冒頭説明で、供給制約の想定以上の継続によって、2%超のインフレ率が来年も継続する点や、物価上昇が広範に拡大している点を認めつつ、来年末までにはインフレ率が減速するとの見方を示した。質疑応答では、インフレの先行きにインフレ期待の上昇を含む上方リスクはあるが、来年中にインフレが減速する見通しはBluechip調査等でも共有されていると説明した。

また、パウエル議長は別の質問に回答する中で、賃金にも広範な上昇がみられるが、これまでは高インフレの主因ではない点を確認した一方、供給制約が緩和した後にも高インフレが持続性を持つか否かは賃金動向に依存する面が大きいとの考えを示し、先行きの賃金動向に注目する必要性を指摘した。

政策判断(資産買入れのテーパリング)

今回(12月)のFOMCは、資産買入れの減速ペース(150億ドル/月)を来年1月から2倍に早めることを決定したが、11月FOMCの議事要旨を含めてこうした可能性が予て示唆されていたこともあって、米国市場では予想の範囲内と理解されているようだ。

記者会見では、インフレ懸念が上昇し、政策の波及効果に時間的なラグがある以上、資産買入れを直ちに中止すべきとの指摘もあったが、パウエル議長は、市場は資産買入れに対する感応度が高く、資産買入れの変更に伴う金融環境への影響は迅速に顕在化するとの理解を示すとして、買入れの漸進的な対応が適切との考えを示唆した。

この点に関しては、別の記者がテーパリングの加速に伴う金融安定面での影響を質したが、パウエル議長は、一部の資産価格の過大評価やMMFの資金調達リスクなどは残存しているものの、金融システム全体としては頑健との評価を確認した。

さらに別な記者は、資産買入れの終了と利上げ開始との時間的間隔を質したのに対し、パウエル議長はFOMCとして具体的に議論していない点を確認しつつ、QE3の際に比べて経済の拡大が力強く、買入れ資産の規模もはるかに大きい(緩和効果が強い)点を指摘して、間隔を顕著に短縮しうる可能性を示唆した。

利上げの展望

今回改訂されたdot chartによれば、FOMCメンバーの大勢(10名 ) が 2022 年末の政策金利を 0.9% と予想し 、来年中の25bp×3回の利上げを示唆した。2023年末や2024年末は予想にばらつきがみられるが、medianは各々1.6%と2.1%であり、 2023~24年中に各々3回と2回の利上げを示唆した。

会見では、インフレ圧力の高まりに対して金融政策がbehind the curveに陥っているとの懸念が示されたのに対し、パウエル議長はこれを否定し、来年3月の資産買入れ終了までのFOMCにおいて、新たな経済指標をもとに利上げ開始の適否を検討する考えを示した。

別な記者は、テーパリングと利上げとの意味合いの違いや、利上げ後のバランスシート調整の可能性を質した。前者についてパウエル議長は、テーパリングは金融緩和の程度を弱めるのに対し、利上げは金融引締めの意味合いを持つと説明しつつ、上にみたSEPの通り、来年も高インフレが続く以上、利上げ開始は適切との考えを説明した。後者については、今回(12月)会合で長期的なバランスシート運営を議論したことを認め、前回局面の経験が有用であったとの認識を示しつつ、今後の課題と説明した。

さらに別な記者は、足許でのイールドカーブのフラット化の意味合いを質した。これに対しパウエル議長は、長期ゾーンの低下が中立金利ないし今回の利上げの到達点に関する市場の慎重な見方に基づく可能性も認めつつ、日本や欧州の長期金利が極めて低位であることが日欧の投資家による米国債投資を通じて下方圧力となっている可能性も示唆した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn