フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 2021年のマクロ経済政策について

2021年のマクロ経済政策について

2021/03/16

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

3月の全国人民代表大会(全人代)の政府活動報告で、今年の中国のマクロ経済政策の方向が示された。

2021年の実質GDP成長率の目標は6%以上とされた。20年の成長率が2.3%、特に20年前半が-1.6%(前年同期比)と比較ベースが低くなっていることを考えると、控え目な目標である。経済が回復傾向にある中で、経済改革、技術革新、経済成長の質を重視する姿勢を示したとも見られる。また、たとえば目標を8%等に設定すると、経済をさらに刺激しなければならないという誤解や言い訳を一部の人々に与えてしまう懸念もある。来年以降の成長率目標を出す際に大きな段差ができることも避けられる。

活動報告はマクロ政策について、急転換せず、連続性・安定性・持続可能性を保ち、経済が合理的なレンジで動くようにするとした。その上で、適時にターゲットを絞った調整を強化する。

足元で海外景気やコロナ感染等に不確実性が残る中で、マクロ政策の引締めへの急転換は考え難い。一方、流動性が豊富な中で、特に、不動産・金融市場などの領域に資金が偏って流れる構造は治っていないため、一部地域では不動産市場の過熱が懸念されており、既に上海、深セン、杭州などでは今年に入り不動産市場の調整策を採るに至っている。このように必要に応じてターゲットを絞った政策を採らざるを得ない状況が続いている。

財政・金融政策について見ると、積極的な財政政策と穏健な金融政策の組み合わせが21年も継続する。

財政政策では、景気が回復している中で、21年の財政赤字の対GDP比は3.2%前後と20年の3.6%超(両者とも予算ベース)から縮小し、20年に1兆元に上った抗疫特別国債も発行しない。

一方で、財政支出(全国一般公共支出)自体は1.8%増加する。全体が増加する中で、中央政府の予算支出は減少し、中央政府から地方政府への一般性移転支払は7.8%増加する。移転支払のうち、20年に始まった財政資金の直接到達メカニズム(中央政府から市・県レベル政府へ事実上直接移転するもの。地方政府は省、地級市、市・県、郷鎮の4級からなる)が常態化され、規模も20年の2兆元から2.8兆元に拡大する。地方財政を手厚くする背景には、地方財政が苦しくなると地方政府の隠れ債務がさらに増えてしまうことを避ける面もあろう。税制面では、小規模納税者、小零細企業・個人経営者向け減税政策が続けられる。

金融政策については、実体経済への貢献を重視し、経済回復と金融リスク防止のバランスをうまくとることとされる。また、マネーサプライと社会資金調達規模の増加率と名目経済成長率を基本的に同じにする。ここで財政赤字の対GDP比(上述の3.2%)を基に計算すると、21年の名目GDP成長率は約9.8%増となる一方、21年2月のM2の前年同月比増加率は10.1%、社会資金調達規模は13.3%である。社会資金調達規模の伸びがやや高いことになるが、以下に見るように、政府は資金調達コスト、特に中小企業の資金調達コストに注意を払っていることから、ここでも政策が急激に変化するわけではなかろう。

融資面では、小零細企業の資金難を解決するために、融資の元利払い延期政策の延長などの優遇策を継続する。また、貸出金利のさらなる引下げを推進し、小零細企業の融資コストを引下げることなどにより、金融システムから実体経済への「利益譲渡」が継続するようにする(20年は1.5兆元。金利低下と手数料等引下げによる)。

20年のマクロ経済政策はとにかく経済安定・社会安定を重視して、かなり拡張的になったことから、21年は正常化に向けて動くと見られるが、小企業等の景気変動に弱い部分に注視しながら慎重に進めることになろう。

執筆者情報

  • 神宮 健

    金融イノベーション研究部

    上席研究員

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn