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螞蟻集団(アントグループ)に業務改善を迫る中国金融当局

2021/04/16

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中国人民銀行、銀行保険監督管理委員会、証券監督管理委員会、外為管理局は4月12日、螞蟻集団(アントグループ)に対して監督管理上の指導を行った。具体的には、アントグループに以下の5点の業務改善を求めた。

  1. 決済業務における不正な競争行為を正す。消費者の決済方式の選択肢を増やし、アリペイとオンラインのクレジットサービス「花唄」や貸出サービス「借唄」などの金融商品との不正な接続を解除し、決済サービスのリンクに貸出業務を組み込むなどの不正行為を正す。
  2. 情報独占を打破する。「信用調査業管理条例」の規制要件を徹底し、法律に基づき個人信用調査業務を行い、「合法、最低、必要」の原則に従って個人情報を収集・利用し、個人と国の情報セキュリティを保障する。
  3. アントグループ全体が金融持株会社の設立を申請する。金融活動を行う会社をすべて金融持株会社に納め監督管理を受ける。リスク隔離措置を整え、関連取引を規範化する。
  4. プルーデンス監督管理の要件を実現し、コーポレートガバナンスを改善する。違法な貸出・保険・理財(資産管理)等の金融活動を是正し、高レバレッジとリスクの伝播をコントロールする。
  5. 重要なファンド商品の流動性リスクを管理・コントロールし、自発的に「余額宝」の規模を縮小する。(中国人民銀行記者発表より)

(1)、(2)、(3)の背景には、金融当局側のアントグループに代表されるインターネット金融プラットフォームのビジネスモデルに対する不信感がある。決済アプリのアリペイで多数のユーザーを囲い込み、それを基に資産運用、貸出、クレジットカード、保険等の金融サービスを提供するモデルは画期的でアントグループの金融業務は大きく拡大したものの、金融当局からは、「いくつかのインターネット企業は、傘下の機関(会社)を利用して、決済業務と融資等その他の金融業務を互いに組み込み、閉じたループを形成しているため、業務過程を貫通して監督管理することが難しく、市場を跨いだリスク波及を引き起こしやすい(人民銀行範副総裁、20年9月24日等)」と批判されてきた。

そして、20年11月に実施された金融持株会社監督管理試行弁法は、金融持株集団に対して「貫通型の監督管理を行い、金融リスクが業界・市場を跨いで伝播することを防止する」(第5条)としている。まさに上記のリスクに取り組むための弁法であり、今回、金融当局はアントグループを金融持株会社化して、監督管理を強化する意図を示したわけである。

同弁法の第34条は、金融持株集団全体のリスク隔離メカニズム(持株会社と傘下の会社の間、傘下の会社間)を構築しなければならない、としている。具体的には、情報共有、販売チームの共有、情報技術システム、運営バックオフィス、営業施設、営業場所等に対して合理的な隔離を行わなければならない(一部略)。このため、アントグループも情報、ITシステム、バックオフィスを、例えばアリペイと他の傘下会社間で隔離しなければならなくなると思われる。

特に、集団内での顧客情報の共有については、第23条に規定がある他、21年1月に発表された「非銀行決済機関条例」(草稿、人民銀行)でも、(アリペイ等の)非銀行決済機関が関連会社にユーザーの情報を共有する場合、ユーザーの同意を得なければならないこと等が定められている。

(4)、(5)については、昨年来、アントグループを始めとするインターネット金融プラットフォームがかかわる金融業務に対して規制が強化されていたことがある。具体的には、インターネット貸出、インターネット預金、モバイル決済等の分野である。

例えば、インターネット預金(商業銀行がインターネットのプラットフォームで販売する預金商品。プラットフォーム側は、預金の情報提供等の手数料収入を得る)では、一部の地方の中小銀行が全国的に預金を集めたり、高金利によって預金を集めたりすることがリスクとして問題視されていた。また、プラットフォーム側が預金集めの促進運動(キャッシュバック等)を行っていることについては、銀行ライセンスを持たずに銀行業務に携わっているとみなす発言が金融当局からも出ていた。実際、アリペイは20年12月にインターネット預金商品の提供を停止しており、背景には金融当局からの要求があった。

インターネット貸出でも、「聯合貸出」(インターネット少額貸出会社がインターネットプラットフォームで得たビッグデータ等を利用した信用調査を基に貸出先を銀行に紹介し、銀行とともに融資する業務)を利用する地方の中小銀行が増える中で、不良債権化した場合の責任の所在が不明なことや、本来地元でサービスを提供するはずの地方の銀行の営業範囲が大きく拡大してしまうことなどが問題となり、やはり金融当局が規制を強めていた(注)。

金融当局は、ライセンスに基づいた機能別規制(同じ金融商品・サービスには同じ規制をかける)を徹底する姿勢を示しており、今回のアントグループに対する業務改善の要求は、伝統的金融機関とアントグループ等の金融業務を公平に取り扱うことを一層明確にしたと言える。また、アントグループの金融業務が拡大し、金融システムの安定上無視できない規模になっている上、最近では、地域を限定されないインターネットの特性もあり、地方の金融機関までも巻き込んで全国的に金融リスクが蓄積しかねなかった状況に対応したものでもある。

(注)インターネット貸出に対する規制は、「中国視窓 ネット少額融資の規制強化へ」(週刊エコノミスト 2012.1.12)参照。

執筆者情報

  • 神宮 健

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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