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緊急事態宣言再発令の経済への影響を試算

2021/01/05

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週内に首都圏の1都3県で緊急事態宣言発令か

1月2日午後に、東京都の小池百合子知事と埼玉、千葉、神奈川各県の知事が、西村経済再生担当相と会談した。その後知事らは記者会見を行い、新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言の発令を政府に要請したことを明らかにした。昨年12月31日に東京都で新型コロナウイルスの新規感染者数が1日で1,337人の急増を見せたこと等から、政府もより強い対策を講じる必要に迫られている。

1月4日の年頭記者会見で菅首相は、緊急事態宣言の検討に入ったことを明らかにした。1都3県を対象に、1か月程度を期間に週内にも発令されることが見込まれる。

仮に政府が緊急事態宣言の発令を近日中に決めるとしても、それは、GOTOトラベルの一時停止と同様に、後手に回った感は否めない。経済への悪影響を警戒した結果なのではないか。

政府内では、緊急事態宣言の効果に懐疑的な見方もある。確かに、強制力が弱い現在の特措法のもとでは、緊急事態宣言の発令が感染抑制に絶大な効果を発揮する保証はない。また、昨年4月、5月の発令時と比べて、その影響力は小さくなる可能性はあろう。人々の危機意識が低下しているためだ。

しかし、発令が個々人の行動を変えるアナウンスメント効果は期待できるだろう。できるだけ早期に緊急事態宣言を発令した上で、通常国会で特措法の改正を通じて、緊急事態宣言の強制力を強めることを目指すべきだ。

緊急事態宣言の発令によって経済活動には大きな打撃が及ぶことは必至であるが、現在の急速なウイルス感染の拡大や変異種の拡大を踏まえれば、それは仕方ないだろう。政府はこの状況下で無理にGOTOトラベルのように景気浮揚策を講じることは妥当でなく、またその効果も期待できない。現状では感染抑制に軸足を置いた政策を講じる一方、給付金、助成金などを通じた企業、個人の支援を一層強化することが求められる。

1か月間1都3県の緊急事態宣言発令で個人消費は4.89兆円減少(年間GDPの0.88%)

緊急事態宣言が再び発令されれば、不要不急の消費は相当分抑制される。家計調査統計に基づいて、個人消費支出のうち不要不急の消費項目をとり出すと、それは消費全体の55.8%となる。再度の緊急事態宣言発令の下でこの不要不急の消費が失われると、ここでは仮定しよう。

また、全国の国民所得に占める東京の比率を見ると17.8%(内閣府「県民所得統計」、2017年)、神奈川県が7.1%、埼玉県が5.4%、千葉県が4.8%である。仮に、1か月間この1都3県を対象に緊急事態宣言が発令される場合、4.89兆円の消費が失われる計算だ。これは日本の1年間のGDPを0.88%押し下げる計算となる。2か月であれば、それぞれ2倍の規模となる。

ちなみに、対象区域を目まぐるしく変えながら、全体としてはより広範囲で発令された昨年春の緊急事態宣言発令によって、4月には10.7兆円、5月には11.2兆円の個人消費がそれぞれ失われた計算となる。今回の緊急事態宣言の対象区域が1都3県にとどまれば、仮に2か月程度続いても経済への悪影響は昨年春の半分程度、となろう。

しかし、感染状況次第では緊急事態宣言の対象区域は、1都3県から段階的に拡大される可能性も十分に考えられるところだ。仮に全国が対象となる場合には、1か月間で14.0兆円の消費が失われ、それは1年間のGDPを2.53%押し下げる計算となる。

企業の破綻、廃業の増加を警戒すべき

仮に、緊急事態宣言の対象区域が1都3県に留まる場合でも、それが1か月程度続けば、今年1-3月期の実質GDPは前期比マイナスとなる可能性は高まるだろう。昨年4-6月期に続くマイナス成長で、日本経済は「2番底」に陥るのである。

年末年始の感染の再拡大を受けて、政府のコロナ経済対策は、再び企業、個人を支援するセーフティーネットの強化へと軸足を戻す必要があるのではないか。先般、政府が閣議決定した3次補正予算では、ポストコロナを見据えて、企業の業態転換を支援し、円滑な産業構造の変化を促す政策が盛り込まれた。これは、感染リスクが抑制されれば確かに重要な政策となるが、当面は、給付金、助成金の増額、延長などの方が優先度は高いだろう。

今回再び発令される可能性がある緊急事態宣言が、直接個人消費に与える影響は、昨年春の前回の緊急事態宣言時ほどではないとみられるが、企業の破綻、廃業などにはより大きな影響を与えるのではないか。

感染拡大の収束に期待して今まで何とか持ち堪えてきた企業の中では、再度の感染拡大と消費減少を受けて、廃業を決めるところが増加する可能性があるだろう。そうなれば、足もとでやや落ち着きを見せてきていた雇用情勢も再び悪化し、失業率が顕著に高まる事態も考えられるところだ。

この点から、政府は通常国会での可決を目指す3次補正予算の中身を今から組み替え、企業、個人の支援を強化する方向へと、経済政策を大きく見直すべきだろう。

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