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年初から実証実験が進むデジタル人民元

2021/01/08

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深圳市でデジタル人民元のお年玉(紅包)

昨年10月に中国全土で初めて市民による大規模なデジタル人民元の実証実験が行われた深圳市で、新年から再び実証実験が行われたことが明らかになった(注1)。

これは、総額2,000万元分のデジタル人民元を、お年玉(「紅包」と呼ばれるお祝い金)として抽選で10万人の市民に一人当たり200元分プレゼントするものだ。

抽選会は1月1日に始まり、市民は同市が準備したプラットフォームから申し込む。お年玉を手にした市民は、1月7日から17日までの間、約1万か所の店舗でデジタル人民元を利用できるという。配布されるデジタル人民元の総額は、前回の2倍である。

昨年12月には蘇州市でもデジタル人民元の実証実験が行われた。その際には、店舗だけでなくネットでもデジタル人民元が利用できた。また、ネットにつながっていない状態のオフラインでも、スマートフォンでデジタル人民元が利用できた。

このように当局は、デジタル人民元の実証実験の場所を変え、また、利用手段などを変えながら、様々なケースの下での実験を行い、そのデータを収集しているのである。深圳市での新年の実証実験についても、今後メディア報道を通じて、新たな形の実験が試みられたことが、明らかになってくるのではないか。

一方、大規模な実証実験ではないが、1月5日に国営通信社の新華社が伝えたところによると、上海市長寧区にある上海交通大学医学院付属同仁病院の職員食堂で5日に、カード方式のデジタル人民元の利用が始まったという(注2)。

金融包摂の観点からカード方式の実験も

今までの実証実験は、スマートフォンのアプリを利用するものだったが、これは、恐らくICチップを搭載した専用のカードを利用するのだろう。日本では「電子マネー」と分類される、読み取り機にかざすことで決済を完了させる「非接触型決済」方式で、JR東日本の「Suica」、楽天の「楽天Edy」、イオングループの「WAON」、セブン&アイ・ホールディングスの「nanaco」などに相当する。

報道によれば、カードの右上にある小さな画面に消費した金額、残高、支払い回数が表示されるという。これは使い勝手の良さを追求した、かなり目新しい機能だ。

デジタル人民元については、スマートフォンを用いて決済する方式に加えて、このようにカードを用いた決済の実験も始められたのである。これは、スマートフォンを使いこなせない人でもデジタル人民元を利用できるようにするための措置だ。すべての人が金融サービスを利用できるようにする、金融包摂の観点から講じられたものである。

アリペイ、ウィーチャットペイなど従来型のスマートフォン決済では、スマートフォンを持たない人は利用できなかった。また、企業側もそうした人々を半ば見捨てる形となってきた。

しかし、中央銀行が社会インフラとして発行するデジタル人民元は、すべての人が等しく利用できるように配慮することが求められる。今後も、すべての人が、あらゆる場所、シチュエーションでデジタル人民元を利用できるように、新たな技術の開発と実験が進められていくだろう。

そうした汎用性、普遍性の観点からは、国境を越えた国際決済にもデジタル人民元が利用できるように、当局は検討を進めるはずである。そもそも、デジタル人民元の一番の狙いは国際決済、そして海外での利用拡大にあると考えられる。

2020年10月には、香港の香港金融管理局(中央銀行に相当)の余偉文総裁は、中国のデジタル通貨「デジタル人民元」を越境(クロスボーダー)決済で利用する実証試験に向けて、中国人民銀行と協議していることを明らかにした。大湾区(広東省9都市、香港、マカオ)内での相互のアクセスを加速させるため、香港金融当局は既に専門チームを立ち上げており、中国側と協力体制を整えているという。

デジタル人民元の国際決済も実験対象に

このプロジェクトが実現すれば、人民元と香港ドルという異なる通貨が流通する地域をまたいだデジタル人民元の実験としては、初めてのことになる。それは、将来的にデジタル人民元を中国外で使用することや、国際決済・送金への活用に向けた準備になるだろう。通貨の異なる香港との実験で国際決済や送金にも通用することを内外にアピールする思惑もありそうだ。

そして2020年の年末には、香港の中央銀行、香港金融管理局が、中国の通貨・人民元をデジタル化した「デジタル人民元」を使った実証実験の検討に入ったことを明らかにしており、実施時期が近付いていることをうかがわせている。

ただし、香港でのデジタル人民元の実証実験は、デジタル人民元が国際決済で広く利用されることで、マネーロンダリング(資金洗浄)などの犯罪に利用され、また、他国の金融システムや金融政策に悪影響を与えることを警戒する先進諸国を大きく刺激することになるだろう。

中国のデジタル人民元の実証実験は、新型コロナウイルス問題で一時的には停滞していた可能性はあったろうが、感染拡大の抑制と景気回復を受けて、昨年秋以降は加速的に進み始めた感がある。中国当局はデジタル人民元の正式発行の時期を決定していないが、2021年2月の北京冬季五輪でのお披露目を目指しているとされる。

しかし、現在のようなペースで多種多様な実証実験が広範囲に行われ、またそのデータが大量に蓄積され、分析されていけば、もっと早い時期に正式に発行される可能性も出てくるだろう。足もとでは、年内にもデジタル人民元が発行されるとの報道も出てきている。

(注1)「深セン市、デジタル人民元のお年玉、市民に2000万元分」、ChinaWave、2021年1月5日
(注2)「デジタル人民元のカード型ウォレット 初の試験使用」、新華社ニュース(中国通信社)、2021年1月6日

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