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緊急事態宣言下での企業支援は広範囲に

2021/01/12

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政府は飲食業の取引先にも一時金支給

政府は緊急事態宣言の発令を受けて、時短要請に応じた飲食店への協力金の上限を、1か月当たり最大180万円に引き上げる方針だ。今回の緊急事態宣言では、政府は感染リスクが高いと考える飲食業の時短・休業要請を対策の柱と位置付けると共に、すべての業種を対象とする従来の持続化給付金、家賃支援給付金制度を、この飲食店への協力金に置き換えていく考えであったとみられる。

しかし、飲食業が休業・時短を実施すれば、飲食業の取引先企業にも影響が及ぶ。そうした企業も支援すべきとの意見を受けて、政府は飲食業の取引先にも給付金を支給する考えに転じた。

梶山経産相は12日に、緊急事態宣言で打撃を受ける飲食店の取引先を支援するため、中堅・中小企業に40万円、個人事業主には20万円を上限に、一時金を支給する考えを表明した。宣言が発令された1都3県の飲食店と取引があり、売り上げが半分以下(今年1・2月の前年比)に落ち込んだ食材・器材の納入業者などが対象となる。13日に対象区域に関西3府県が加われば、同地域の飲食店とその取引先も一時金支給の対象となる。

他方で政府は、持続化給付金、家賃支援給付金制度の申請を1月15日で締め切る方針だ。

飲食サービス業の売り上げ減少は他業種にも大きな影響

感染拡大、あるいは休業・時短要請によって飲食業の売り上げが減少すれば、その影響は他の多くの業種に及ぶことは確かである。そこで以下では、内閣府「平成29年SNA産業連関表(平成23年基準)」を用いて、飲食業の他業種との取引規模の実態を確認してみたい(図表)。

2017年(平成29年)に、飲食サービス業の年間生産額(売上高)は27.0兆円だった。このうち11.1兆円が付加価値部分、残り15.9兆円が中間投入分、つまり他業種から仕入れている原材料費等にあたる。他業種からの投入で最大なのは、卸売業の2.0兆円である。飲食サービス業は、卸売業者を通じて様々な食材、飲料などを仕入れているためだ。

さらに、生産者から直接仕入れている食材も多い。取引額の上位には、「飲料」、「畜産食料品」、「水産食料品」、米・麦以外の「その他の耕種農業」などが並んでいる。

他方、取引先企業が飲食サービス業に納入している分が、売り上げ全体に占める比率を計算すると、「飲料」、「畜産食料品」、「水産食料品」では4分の1程度と極めて高い。また、「その他食料品」、「その他の耕種農業」、「精穀・製粉」でもその比率は10%を上回る。こうした飲・食料品製造業や農業には、飲食サービス業の休業・時短の影響が大きく及ぶことは必至である。

この点を踏まえると、政府が飲食業の取引先にも給付金を支給する考えに転じたことは評価できる。

(図表)飲食サービス業の取引額上位業種

支援は幅広い業種に

しかし、飲食店への協力金の上限が1か月当たり最大180万円であるのに対して、飲食店の取引先へは中堅・中小企業で40万円、個人事業主で20万円を上限とする一時金と、支援の規模にかなりの差がある。既に見たように、飲・食料品製造業や農業などの取引先も、飲食サービス業の休業・時短要請によって、相当の打撃となるにも関わらず、である。

さらに、政府が休業・時短の協力金を支払う予定の飲食店とカラオケ店以外でも、感染拡大や緊急事態宣言の影響で売上高が大幅に落ちる業種は多く出てくるはずだ。

ところで、今回再び発令される可能性がある緊急事態宣言が、直接個人消費に与える影響は、昨年春の前回の緊急事態宣言時ほどではないとしても、企業の破綻、廃業などにはより大きな影響を与えるのではないか。

感染拡大の収束を期待して今まで何とか持ち堪えてきた企業の中には、再度の感染拡大と消費減少を受けて、廃業を決めるところが増加する可能性があるだろう。そうなれば、足もとでやや落ち着きを見せてきていた雇用情勢も再び悪化し、失業率が顕著に高まる事態も考えられるところだ。この点を踏まえると、個人消費に与える間接的な影響は、前回の緊急事態宣言を上回るのではないか。そうなれば、休業・時短要請の対象となる業種だけでなく、消費関連業種は総じて売上高を大きく落とす可能性がある。

この点から、政府の支援対象は、飲食業とその取引先だけでなく、全業種を対象とすべきではないか。持続化給付金、家賃支援給付金制度の延長や、それに類する後継支援制度の創設を直ぐに検討すべきだ。

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