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中国アント・グループへの規制強化で焦点となる個人データの利用

2021/01/14

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アプリでの個人情報・データ収集を規制

中国当局は、アリババグループ傘下の金融会社アント・グループに対する規制を急速に強めている(コラム「中国プラットフォーマーの金融ビジネス拡大と当局の規制強化」、2020年12月24日)。アント・グループがユーザーから収集する大量のデータを活用して莫大な利益をあげ、独占状況を作り出し、既存の金融機関のビジネスを強く圧迫していることが、当局が問題視している点の一つだ。アリババグループ創業者のジャック・マー(馬雲)氏に対して当局は、大量の個人データを共有するように長年働きかけてきたが、ジャック・マー氏はそれに抵抗を続けてきたと言われている。

昨年12月に国家インターネット情報弁公室は、ネット企業がスマートフォンなどのアプリを通じて個人情報・データを集める行為を規制する、新たな指針案を公表した。個人情報・データをネット企業が集める際には利用者の同意が必要となるほか、サービスに関係のない個人情報・データを集めることを禁じるものだ。これは、アリババグループなど巨大ネット企業を主なターゲットにした規制だ。

多くの大手ネット企業のアプリでは、利用開始時に個人情報を収集することに対して同意を求めるケースが多い。ただし、サービスに関連しない内容の個人情報も併せて収集してきたアプリは、少なくないとみられている。

アリババグループやテンセントの場合には、同じアプリ上で生活に必要な様々なサービスを提供している。いわゆるスーパーアプリである。アント・グループのスマートフォン決済アプリのアリペイは10億人、テンセントの対話アプリであるウィーチャット(微信)は、12億人超のユーザーを抱えているとされる。

アント・グループはデータ活用で莫大な利益をあげる

個々のサービスについては、必要以上の個人情報・データを収集しないとしても、それらを組み合わせ、分析することによって、情報の価値を飛躍的に高めることができる。それを利用してユーザーに高いサービスを提供することで、独占的な地位を確立していくことが可能となる。また、それをターゲット広告に利用して、巨額の利益をあげることもできるのである。

アント・グループの場合には、個人情報・データを金融サービスに活用することで、既存の金融業者に対してかなり優位に立つことができた。その代表例が、現在、アント・グループの収益の最大の柱となっている消費者金融サービスである。それを支えるのは、大量の個人情報を基にAIを活用した独自の信用リスク計測システムだ。

ただしアント・グループは、これを自身の融資に利用するだけではない。協調融資が一般的で、アント・グループの融資は全体の1~10%程度であり、それ以外は金融機関が提供する。協調融資に参加する他の銀行も、アント・グループの信用リスク計測システムを使うのである。

当局は、決済業務から始まり、多くの金融サービスに業務を拡大させつつ莫大な利益をあげるアント・グループに対して、そのビジネスモデルを2つの方向に誘導するように働きかけてきたように思われる。第1は、強い規制を受け入れて、金融業に近付くこと、第2は、既存の金融業に対して先端のツールを提供するプラットフォーマーに特化していくことだ。それよって、銀行業界にイノベーションを引き起こし、金融業の発展に資することを期待したのである。

規制を受け入れて金融サービスからの撤退を免れる道を選ぶ

アント・グループが他の銀行に信用リスク計測システムのサービスを提供してきたことは、上記2つのうち、後者の金融業界のプラットフォーマーとしての役割を担っていく方向にあるように見える。

しかしそこでも、アント・グループは独占的な利益を得てきたのである。融資の大半を他の銀行に担わせ、いわば信用リスクを抱えさせる一方、自身は限られた信用リスクしか負わない。他方で、信用リスク計測システムのサービスを提供した先の銀行からは、金利収入の15%前後の高い手数料を得ているという。

当局は、アント・グループに金融業界のプラットフォーマーとしての役割を担わせることを、もはやあきらめつつあるのではないか。その上で、強い規制を受け入れてより金融業に近付いていくのか、あるいは金融ビジネスから撤退するかの選択を、アント・グループに迫っているように見える。

アント・グループは、当局の求めに応じる形で、金融持ち株会社を設立し、金融事業の大半を移管することを検討しているとされる(コラム「アントが金融持ち株会社創設で強い規制を受け入れるか」、2021年1月6日)。金融持ち株会社を設立すれば、銀行と同様の規制を受け入れることになる。これは、アント・グループが、金融ビジネスからの撤退を決めるのではなく、金融業に匹敵する強い規制を受け入れつつ、金融ビジネスを続けていく方針であることを意味しているのではないか。

今後は、アント・グループの収益力の源泉となっている、個人情報・データについて、同じグループ内であっても、様々な金融サービス間で共有することを制限するような規制も、当局は検討していくのではないか。

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