動きだしたサステナブルファイナンス強化の取組み
サステナブルファイナンス有識者会議で3つの検討テーマ
金融庁は、2050年に温室効果ガス排出を実質ゼロにする政府目標の実現に向けて、民間企業の取り組みを金融面から支援するための環境整備を協議する「サステナブルファイナンス有識者会議」を設立し、1月21日にその初会合を開いた。今春を目途に議論を取りまとめ、政府の成長戦略に反映させる方針だ。
金融庁が公表した資料から推察される検討テーマは、以下の3つである。第1は、「金融機関によるサステナブルファイナンスの促進とリスク管理」だ。金融機関によるサステナブルファイナンスの促進については、金融機関が投資や融資を通じて企業が高い技術・潜在力が発揮されるように支え、カーボンニュートラル社会への移行を促進するための方策が検討されよう。金融機関のリスク管理については、気候変動による水害などの自然災害がもたらす資産へのリスク、低炭素社会への移行に伴い、地球温暖化ガス排出量の多い融資先企業のビジネスが縮小すること等に伴う資産へのリスク、などの分析、評価の高度化などが議論されるのではないか。
第2は、「投資家への投資機会の提供」だ。これについては、カーボンニュートラル社会に貢献する投資機会とその収益を、幅広く国民に提供するための方策が検討されよう。脱炭素化社会の実現には、省エネ・エネルギー転換などのトランジション(移行)に多くの資金が必要となる。それを支えるトランジション・ボンド(移行債)、トランジション・ローン(移行融資)の推進が議論されるのではないか。
第3は、「企業の開示」だ。投資資金を呼び込むために、企業に対しては、環境関連投資や気候変動についての情報開示を促して、対策に前向きな企業を投資家が選別できるようにするための方策が議論されよう。企業と投資家の対話を促すための企業統治指針で開示を強化する案が議論されているほか、財務局への提出が企業に義務付けられている有価証券報告書への記載を求める意見もある。
投融資の撤退(ダイベストメント)は現実的でない
これら3点のうち、最も議論が難航する可能性があるのが、第1の「金融機関によるサステナブルファイナンスの促進とリスク管理」ではないか。金融機関には、脱炭素化に向けた新技術の開発、投資への積極的な融資姿勢が求められる。しかし一方で、未知の技術に関連する融資のリスクを、金融機関が正確に見極めるのは難しいのではないか。
また日本では、石炭火力発電など地球温暖化ガスを多く輩出する環境負荷の高い事業の転換が急務である。ただし、そうした企業に対する金融機関の融資を一気に解消するようなことは、現実的ではないだろう。
日本経済新聞の報道によると、「サステナブルファイナンス有識者会議」の金融界からの参加者は、「気候変動対策は一定の時間を要する。すでに実行済みの貸出資産を抱えながら新規案件の内容を変えるという二正面の対応が求められる」と述べたという。また会議では、環境負荷の高い企業からの投融資の撤退(ダイベストメント)には踏み込まない可能性が高い、という。これは妥当なことだろう。
国内金融機関と海外投資家との温度差は大きい
環境負荷の高い企業に対する投融資を一気に停止する、あるいは引き上げれば、経済活動にも大きな打撃が及んでしまう。そして、そうした企業がより環境負荷を下げていくために必要な投資が賄えなくなるなど、脱炭素化に向けた取り組みにむしろ逆行してしまう面がある点に留意が必要だ。
他方で海外投資家の間では、日本の金融機関に対して、環境負荷の高い企業への新規融資を停止するような株主提案が、この先強まっていくと見られる(コラム「銀行の地球温暖化対策への株主提案は日本でも」、2021年1月13日)。菅首相は1月18日の施政方針演説で、3,000兆円とも言われる海外の環境投資を呼び込む考えを表明した。グローバルな投資家は、各国の企業に対しても一律のグローバルな基準で株主提案を行う傾向があるだろう。
しかし、地球温暖化問題と対策については、電源構成、産業構造など、各国の環境はまちまちであり、また各国政府の戦略も異なっている。国内事情を踏まえて、より長めの視点からサステナブルファイナンスの促進に取り組もうとする国内金融機関と、一律のグローバル基準に基づいてラディカルな対応を求める海外投資家との間には温度差が大きい。両者のギャップを如何に縮小させていくかは、今後の大きな課題である。この点についても、有識者会議ではしっかりと議論して欲しい。