フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 米国金融市場の構造問題を次々に浮き彫りにする個人投資家騒動

米国金融市場の構造問題を次々に浮き彫りにする個人投資家騒動

2021/02/03

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

イエレン財務長官が金融規制当局との会合を招集

米財務省は日本時間2月3日、イエレン財務長官が最近の金融市場のボラティリティの上昇について協議するため、金融規制当局との会合を招集したことを明らかにした。イエレン財務長官は、米証券取引委員会(SEC)、米連邦準備制度理事会(FRB)、米商品先物取引所(CFTC)の当局者らと会合する見込みだ。

他方、下院金融委員会は、ゲームストップなど、個人投資家がSNSを通じて結託し株価を吊り上げ、また株価の変動幅(ボラティリティ)を大きく高めたことに関して、2月18日に公聴会を開く。そこでは、ロビンフッドのブラッド・テネフCEO(最高経営責任者)が議会証言するとみられている。

議会では、個人投資家による結託した株価吊り上げ行動よりも、1月28日にオンライン証券のロビンフッド等がゲームストップなどの銘柄の取り引きを制限したことへの関心がより大きいように見える。民主党議員は、ヘッジファンド等機関投資家が自由に取引できる中で、個人投資家の取り引きのみが制限されて、彼らの利益が損なわれたことを問題視する。他方、共和党議員は、自由な取引を制限したこと自体を問題視している面があるのではないか。

さらに、庶民の味方を標榜しながら、ロビンフッドに代表されるオンライン証券は個人投資家の注文を機関投資家のHFT(高速・高頻度取引)業者に流し、いわば情報を売ることでリベートを得ている。それを使って個人投資家に手数料無料のサービスを提供しているのである。

ロビンフッドのビジネスモデルにも改めて注目が集まる

しかし、個人投資家の注文を使って、HFT業者が個人投資家に先回りするような投資で利益を得ているのではないか、といった問題も従来から指摘されている。そうした問題も、今回、改めて注目されるようになっている。

こうしたビジネスモデルのもとでは、ロビンフッドは庶民の味方を標榜しつつ、実はヘッジファンド、HFT業者など機関投資家と結託しているのではないか、との観測も強まっている。1月28日のロビンフッドによる取引制限は、個人投資家が敵対し、ショートスクイーズ(ショート筋が価格上昇を受けて損切りすること)に追い込んだヘッジファンドらとロビンフッドが結託したものだ、との批判も出ている。ロビンフッドの顧客であるロビンフッダーの間では、同社との証券取引を止める、との書き込みもSNSには多く見られた。

また、個人投資家のグループは、投資による利益獲得の機会を正当な理由なく奪ったとして、ロビンフッドに対して集団訴訟を起こしている。株式市場での「個人投資家の復権」、「金融市場の民主化」を掲げてきたロビンフッドのビジネスモデルも、大きな危機に直面しているのである。

ロビンフッドは決済期間の短期化を求める

2月18日の公聴会でロビンフッドのテネフCEOは、取引停止の理由は、ヘッジファンドらとの結託ではなく、オプションなどの取引の処理を手がける清算機関が、損失の可能性に備えて保証金を積み増すよう求めたことへの対応、と説明するだろう。

株式市場のボラティリティがさらに高まる場合には、追加的な保証金の積み増しを求められることになることから、顧客がゲームストップなどの株式の顧客の持ち高をこれ以上増やさないように、制限を掛けたのである。

テネフCEOは、この機会に、取引が即時決済されるよう主張する可能性がある。投資家が株を売買してから、投資家の資金と証券が実際に交換されるまでには時間がかかる。その間に取引者の支払い能力が一気に低下して、決済(支払い)が成立しないリスクがある。それを回避するために、清算会社は証券会社に一定程度の保証金の積み増しを求めている。そして今回のように、株式市場の変動が大きい場合には、保証金のさらなる積み増しを求められ、現在のロビンフッドのように資金不足に直面し、金策に翻弄するような事態が生じるのである。

テネフCEOは、ブログへの投稿で、株式の取引決済まで2日もかかるため投資家や業界を無用なリスクにさらしていると指摘し、即時決済に向けた制度の見直しを主張している。SECは1993年に、株式の決済期間を5日から3日に短縮した。さらに2017年に現在の2日まで短くしている。ついに、金融市場改革の議論にまで発展してきているのである。

個人投資家への対応が最優先

個人投資家がSNSを通じて結託してゲームストップなどの株価を吊り上げる行動は、このように、米国金融市場の様々な問題点を改めて浮き彫りにしている。これを機会にこうした諸問題に対して、改善策が講じられることは望ましいのではないか。

しかしながら、最初に手を付けなくてはならないのは、個人投資家がSNSを通じて結託する株価操縦的な行為を抑えることだろう。足もとではゲームストップなどの株価上昇に歯止めがかかり始めたようにも見える。しかし、個人投資家は縦横無尽に、価格吊り上げの対象を開拓することができるのだ。ゲームストップなどの取り引きが制限されたことで、むしろ対象は一気に広がった感もある。

銀先物などの商品に加えて、SPAC(特別買収目的会社)も個人投資家の標的となっている。SPACは、非公開企業との合併を目指す「ブランクチェック(白紙小切手)会社」である。買入れ対象となる企業が決まっていない段階の、まさに実体のないSPACの株が大きく買われている。

個人投資家によるこうした投機的な投資行動が続けば、金融市場のボラティリティは一段と高まり、また金融市場の効率性、公正性、信頼性は大きく低下してしまうだろう。株価の暴落などで個人投資家に大きな損失が出て深刻な社会問題に発展する、といった悲惨な幕切れとなる前に、SNSを通じた個人投資家の結託に歯止めをかける必要があるのではないか。

ただし、個人投資家に好意的な民主党政権、民主党主導の議会が成立したことで、そうした取り組みが迅速に進まないことが懸念されるところだ。

(参考資料)
"GameStop Stock, Reddit and Robinhood: What You Need to Know", Wall Street Journal, February 1, 2021
"GameStop Day Traders Are Moving Into SPACs", Wall Street Journal, February 2, 2021

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn