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世界の中銀デジタル通貨(CBDC)の現状

2021/02/04

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国際決済銀行(BIS)による中銀デジタル通貨のサーベイ調査

中央銀行間の決済を行うなど、「中央銀行のための銀行」とも呼ばれる国際組織の国際決済銀行(BIS)は、各国中央銀行に対して中銀デジタル通貨への取組みや発行計画などを問うサーベイ調査を毎年実施している。その最新の2020年分の調査結果が1月27日に公表された(注1)。

2020年の調査では、65の中央銀行(先進国21、新興国44)から回答が得られたが、これは世界の人口の72%、世界の経済規模の91%に相当する国の中央銀行だ。実施時期は、2020年10-12月期である。

それによると、多くの中央銀行で、新型コロナウイルス問題に妨げられることなく中銀デジタル通貨に関する調査研究が一層進められた。さらにその内容も、思考実験から実証実験へと段階を進めるものが増えてきている。

ただし、中銀デジタル通貨の発行への実際の取り組みは国によって異なっており、決して一様ではない。以前の調査でもそうであったが、概して、新興国の中央銀行の方が中銀デジタル通貨の発行により前向きな傾向が見られる。その一つの理由は、銀行口座を持たない国民も多い中、中銀デジタル通貨の発行によって、国民が等しく金融サービスを受けられる金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)を前進させることができる、との考えが新興国には強いためだ。昨年10月にはバハマが、本格的な中銀デジタル通貨「サンドドル」の発行に踏み切っている。

世界の人口で2割に当たる中央銀行が、向こう3年のうちに中銀デジタル通貨を発行する予定と回答している。それでも過半数の中央銀行は、近い将来に中銀デジタル通貨を発行する予定はないという。

中銀デジタル通貨に携わる中央銀行は全体の86%まで上昇

中銀デジタル通貨に関連する業務に携わっていると回答した中央銀行は、2017年調査の65%、2018年の70%超、2019年の80%程度から、最新2020年では約86%にまで達した。中銀デジタル通貨への関心は、各国中央銀行の間で急速に高まっている。

さらに、中銀デジタル通貨の調査研究は、思考研究から実証研究の段階へと2020年にかなり進んだ。その比率は、2019年の42%から2020年には約60%へと一気に高まったのである。

一方で、中銀デジタル通貨の研究など、関連する業務に携わっていないと回答した中央銀行の多くは、その理由に、中銀デジタル通貨の発行を決める法的な権限を有していない、という点を挙げているようだ。

中銀デジタル通貨の発行を検討する動機として挙げられる要因のうち、先進国の中央銀行と新興国の乖離が最も大きいのが、既に述べた金融包摂である。新興国の方が、金融包摂の推進の観点から中銀デジタル通貨の発行を検討する傾向が強い。

例えば、昨年中銀デジタル通貨を発行したバハマの場合には、39万人の人口が30の島に分散しており、国民が銀行、ATMから現金を簡単に入手できない環境にある。また、銀行口座を持っていない国民も少なくないだろう。そのもとでは、スマートフォンなどで簡単に利用できるデジタル通貨を中央銀行が発行することで、国民の利便性を高めることが可能となる。

また、中銀デジタル通貨にマイナス金利を付けて金融緩和の効果を高めるなど、金融政策の効果を高めること、金融システムの安定、決済の効率性向上などについても、新興国の中央銀行にとって中銀デジタル通貨の発行を検討する、より大きな動機として挙げられている。

一方、中央銀行デジタル通貨の発行に関する法的権限の曖昧さが、中央銀行が中央銀行デジタル通貨を発行する際の大きな課題、あるいは障害となっている。約26%の中央銀行は、中銀デジタル通貨を発行する法的権限を持っていない、と回答している。これは、法的権限があるとする回答とほぼ同水準である。他方で、「(法的権限があるかどうか)不明」との回答は48%と、半分近い水準である。

グローバル・ステーブルコインへの関心を強める

向こう3年程度のうちに中銀デジタル通貨を発行する可能性が高い(likely)との回答比率は、2019年時点での10%程度から大きく変化していないが、可能性がある(possible)との回答比率は、14%程度から21%程度へと高まっている。

依然として、全体の60%の中央銀行は、「近い将来に、中銀デジタル通貨を発行する可能性は低い」と回答しているものの、中銀デジタル通貨の効果と副作用の検証など、調査研究は確実に進んでいるのである。

中央銀行の間では、ビットコインなど仮想通貨(暗号資産)への強い関心は見られない一方、通貨価値がより安定しており、国際間での決済に利用される可能性がより高い、ディエム(旧リブラ)など「グローバル・ステーブルコイン」への関心、あるいは警戒は高まっている。それが金融システムの安定に及ぼす影響などを研究していると回答した中央銀行は、全体の3分の2にも及んでいる。特に警戒しているのは、国際的な決済(クロスボーダー決済)に広く利用された時の影響である。

以上の調査結果に表れているように、中央銀行の間では、中銀デジタル通貨への研究・調査は年々広がってきている。特に新興国の間で、中銀デジタル通貨発行への関心は強い。

全体の60%の中央銀行は、近い将来のうちに中銀デジタル通貨を発行する可能性は低い、と回答しているが、これも今後の情勢次第で変化するのではないか。特に注目しておきたいのが、ディエムと中国のデジタル人民元の発行だ。ディエムは年内にも、そしてデジタル人民元は来年にも発行が見込まれている。

発行された後に、それが国境を越えて広く利用されるとの見通しが高まれば、各中央銀行の間では、それらの通貨に対抗する観点から、中銀デジタル通貨の発行計画を前倒しにする動きが出てくるのではないか。

2019年にフェイスブックがリブラ計画を発表したことが、中国のデジタル人民元発行計画を前倒しさせたように、デジタル人民元の発行が、現在ではまだ慎重な先進国での中銀デジタル通貨発行の機運を一気に高める可能性も、考えておくべきではないか。

(注1)"Ready, steady, go? – Results of the third BIS survey on central bank digital currency", BIS Papers No 114, January 2021, Codruta Boar and Andreas Wehrli

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