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テスラのビットコイン保有で市場の投機色は強まるか

2021/02/10

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テスラがビットコインに投資

2月9日のアジア市場の取引で、仮想通貨(暗号資産)のビットコインは、一時4万8,000ドルを上回る急騰を見せ、史上最高値を更新した。米電気自動車(EV)メーカーのテスラが、総額15億ドルのビットコインへの投資を公表し、また、ビットコインを同社のEVの代金としても受け入れる予定があるとしたことが、ビットコインの価格急騰につながった。

8日に提出した年次報告書で、テスラはビットコインの投資について明らかにした。「適切な経営上の流動性維持に必要ではない現金について、運用益の多様化・最大化に向けた柔軟性を持たせる」ための措置、との説明である。2020年末時点で保有する現金などの193億8,000万ドルのうち8%をビットコインに振り向けている。これは、テスラの2020年の研究開発費と同規模であり、単なる象徴にとどまらない規模だ。今後も「随時、または長期的にデジタル資産を購入、保有する可能性がある」としている。

今回のテスラの決定は、少なくとも短期的にはビットコイン、あるいは仮想通貨(暗号資産)全体の価格押し上げに貢献する可能性がある。世界屈指の企業が、ビットコインの価値にお墨付けを与えたことになるからだ。テスラ自らがビットコインの保有をさらに拡大させるとの観測に加えて、他の企業の間でもテスラに追随してビットコインを保有する動きが広がる可能性がある、あるいはそうした観測が高まる可能性があるだろう。また、テスラのEVの購入時の支払いにビットコインが広く使われていくとの期待も、価格上昇を助けるかもしれない。

強まるビットコインとテスラ株の連動性

ビットコインは、その価格変動の大きさや支払いに要する時間などから、支払い手段としての利用は広がらず、もっぱら投資資産として注目されてきた。ビットコインの価値は、より安価で利便性の高い支払い手段を提供するという点にあるため、広く支払いに利用されない場合には、その価値はかなり不明確なものと考えられる。しかし、今回テスラが相応規模で保有したことで、初めて経済活動との関連性がビットコインに生まれた、と言えるのではないか。

EVの販売増加でテスラの業績が上向けば、テスラがビットコインの保有をさらに拡大する余裕が生まれる。また、EVの販売増加は、ビットコインの支払い拡大につながる可能性もある。この点から、テスラの企業価値とビットコインの価格とは、今後連動性を強めていこう。

しかし一方で、懸念もある。ビットコインとテスラ株価は、共に昨年から急騰した、投機対象資産の代表との見方もある。それらが結びつくことで、より投機的な投資行動や価格変動が増幅される可能性があるかもしれない。双方の価格は連動性を強め、まさに一連托生の様相となることも考えられる。

また、テスラはS&P500種の構成銘柄で、時価総額で約2%のウエイトを持つ。このことから、テスラを媒介にして、ビットコインの価格とS&P500との連動性についても、従来以上に高まる可能性が出てきた。

ビットコインもロビンフッダーの標的になるか

昨年テスラの株価を押し上げることに貢献したのは、ロビンフッダーなど個人投資家と言われている。彼らの一部は年初から、SNSで結託してゲームストップ等の株価の押し上げたことで注目を集めている。

テスラのビットコイン保有を受けて、彼らが新たにビットコインへの投資に注力する可能性もあるのではないか。その場合、SNSで結託した価格操作的な行動で、ビットコインの価格のボラティリティが一段と高まる事態は生じないだろうか。

そうした中、仮にビットコインの価格が急落すれば、それを相当規模保有するテスラ株にも下落圧力となる。ビットコインの価格下落は、テスラに減損処理を強いるものとなるためだ。

また、テスラはEV購入代金をビットコインで受け取る考えを示しているが、実際には価格変動の大きいビットコインでの代金受け取りは、テスラにとっても大きなリスクである。結局は、それを撤回する可能性もあるかもしれない。その場合には、ビットコインの価格が下がり、テスラの株価も下がる。双方が相乗的に下がる可能性も十分に考えられるのではないか。

このように様々な可能性を考えてみると、テスラのニュースでユーフォリアが生じた感があるビットコイン、その他仮想通貨(暗号資産)の市場については、引き続き冷静な目で見ていく必要があるだろう。

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