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地震発生で強まる自動車製造の半導体不足に既視感

2021/02/15

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地震を受けて多くの工場が一時停止

2月13日深夜に発生した福島県沖を震源とする震度6強の地震は、週明け後の経済活動に支障をきたしている。現時点での製造業の主な状況は、以下の通りだ。

  • 三井化学:千葉県市原工場の操業が停止。再開に10日程度かかる見通し
  • JFEホールディング:仙台製造所が停止。稼働再開時期は未定
  • キリンHD:仙台工場が稼働停止。再開は17日以降
  • アサヒグループHD:福島工場が稼働停止。製造は2月下旬のめど
  • 村田製作所:東北3工場の稼働を停止。再開時期は未定
  • 日本製紙:宮城県2工場の稼働を停止。再開時期は未定
  • 石油資源開発:東北のLNG基地と天然ガス発電所を停止。再開時期は未定
  • 信越化学:一部工場が操業停止
  • ソニー:宮城県の2工場の操業を停止。クリーンルームの確認を進めている
  • 富士石油:千葉県の袖ケ浦製油所の主要装置が停止。16日から順次再開予定

地震の影響で工場の操業を停止している企業、業種は多岐に及んでいる。ただし、いずれも操業停止は長期化しないと見られ、経済活動に与える影響は大きなものにはならないだろう。

ルネサスの那珂工場が再び停止

しかし、そうした中で気がかりなのは、半導体大手ルネサスエレクトロニクス社の動向である。同社の那珂工場(茨城県)は、一時停電があった後に稼働を再開したが、安全のため再び操業を停止し、クリーンルーム内の安全確認と装置や製品の被害状況の確認を現在進めているという。半導体工場は24時間稼働が原則で、日曜日も操業を予定していた。

これには、非常に強い既視感がある。ちょうど10年前の東日本大震災の際に、車載用半導体世界大手だったルネサスエレクトロニクスが国内8工場で被災し、稼働を停止した。特に茨城県ひたちなか市にある主力の那珂工場は、車載用マイコン全体の約25%を生産しており、その影響は深刻だった。那珂工場は約3か月間操業を停止し、自動車の生産に甚大な被害をもたらしたのである。那珂工場の操業停止を受けて、10年前の経験を思い起こした向きは少なくないだろう。

世界規模での車載半導体不足をより深刻に

その後のルネサスは震災による供給危機の経験をきっかけに世界最大手のTSMC(台湾積体電路製造)などへの生産委託拡大を進め、生産の分散化を図ったのである。

ところが、昨年10-12月期以降、車載半導体の深刻な不足が世界規模で発生した。コロナショックによる自動車生産の急減を受けて、世界の自動車メーカーは車載半導体など部品の調達を一時絞ったが、その後自動車販売・生産が急回復したため、車載半導体の供給が追い付かなくなった。

半導体メーカーが、車載半導体の製造よりも、コロナ下で需要が高まった、パソコン、スマートフォン、テレビ、白物家電などに使う半導体の製造を優先していることも影響している。半導体メーカーは自動車からの大量注文をこなしにくい状況にあり、車載半導体品薄は半年以上続くとの見方もある。そのため、世界の自動車メーカーは、車載半導体不足による減産を余儀なくされている。

そこでルネサスエレクトロニクスは、TSMCなどに委託していた車載半導体のマイコンの一部を自社生産に切り替えた。その矢先に起こったのが、今回の地震である。

現時点で那珂工場の停止が、自動車生産にどの程度悪影響を与えるかは不明であるが、仮に長期化すれば、それは車載半導体の不足をより深刻なものとし、経済活動全体にも相応の影響が及ぶ可能性が出てこよう。

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