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中銀デジタル通貨のクロスボーダー決済と標準化争い

2021/02/16

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先進各国はデジタル人民元の国外での利用拡大を警戒

中銀デジタル通貨(CBDC)を発行するかどうかは、通貨主権に関わる問題であるため、各国それぞれの判断に委ねられる。しかし、それが国境を越えて海外で広く使われるようになれば、また話は変わってくる。他国との間で軋轢が生じやすくなり、調整が必要となる。

価値が比較的安定し、世界で広く使われる「グローバル・ステーブル・コイン」と呼ばれる民間デジタル通貨と同様に、中銀デジタル通貨もマネーロンダリング(資金洗浄)等の犯罪に使われる可能性がある。また、銀行を通じた国際送金と比べて瞬時に、そして低コストでお金を動かすことができることから、中銀デジタル通貨が他国に急激に流入したり、また逆に流出したりする可能性が出てくる。そうした資金の出入りは、その国の為替レートに大きな変動をもたらし、経済に打撃を与えることもある。それは、金融政策運営にも悪影響を与えるだろう。

先進各国が、デジタル人民元を強く警戒する理由の一つは、こうした点にある。そして、中国が「デジタル人民元を海外に広める意図を持っているのではないか」、と先進各国は強い疑念を抱いているのである。

デジタル人民元がユーロ圏内あるいは近隣国で広く利用されることを最も強く警戒しているのが、欧州中央銀行(ECB)である。ECBは他方で、将来、自らが中銀デジタル通貨デジタルユーロを発行する際には、同様の問題を他国に引き起こしてしまうことも心配している。

中銀デジタル通貨の研究、意見交換などを行う7中央銀行と国際決済銀行(BIS)が2020年10月に公表した報告書(注)では、中銀デジタル通貨が国際送金に使われる場合の利点や問題点などが、詳細に議論された。中銀デジタル通貨を発行することの利点の一つは、利用者にとって国際送金をより便利なものにすることにある。現在の国際銀行送金は、かなり割高であるうえ、送金に時間がかかる。

一方で、民間のデジタル通貨グローバル・ステーブル・コインではなく、中銀デジタル通貨であれば、既に述べたような様々な問題をよりコントロールしつつ、国際送金をより便利なものにすることができる、との考えが先進国の中央銀行にはある。

中銀デジタル通貨のクロスボーダー決済で標準化争いか

そして、将来、中銀デジタル通貨の発行が各国で広まった場合に、中央銀行が協力して、中銀デジタル通貨同士の交換を含む中銀デジタル通貨のクロスボーダー決済(国際決済)の仕組みを作っていく構想が議論されている。

日本銀行が昨年10月に公表した中銀デジタル通貨の報告書「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」でも、複数の国の中銀デジタル通貨を相互に交換できるようにするなど、中銀デジタル通貨の枠組みをクロスボーダー決済の改善に活用する案がG20(主要20か国・地域)で検討されていることを明らかにしている。さらに、中銀デジタル通貨間での相互運用性を確保する観点から、データフォーマット等の国際標準化についても、各国間で積極的に議論していくことが大切、としている。

各国が、中銀デジタル通貨を用いたクロスボーダー決済(国際決済)の仕組みを将来作っていく可能性を視野に入れれば、中銀デジタル通貨発行のタイミングはまちまちであるとしても、今のうちから、国際標準化を意識して議論しておく必要があるだろう。

他方で中国は、現在発行準備を進めているデジタル人民元について、その情報をほとんど他国に開示していない。そこで先進各国は、中国が主要国で最も早く中銀デジタル通貨を発行することで、中銀デジタル通貨の事実上の国際標準を作り上げてしまうことを強く警戒している。先進各国はデジタル人民元の技術面、制度面などでの標準をそのまま受け入れることはなく、先進各国間での国際標準作りを別途進めてくことになるだろう。

その場合、将来的には中銀デジタル通貨を用いたクロスボーダー決済が、「中国型」と「先進国型」とに大きく分かれ、両者間で激しい標準争いが生じるのではないか。さらに、クロスボーダー決済を巡る標準争いは、通貨圏を巡る争いとも連動していく可能性が高まる。

(注)Central bank digital currencies: foundational principles and core features

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