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コロナ下での新たな働き方の広がり:副業とフリーランスが生産性向上に

2021/02/17

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コロナ禍がフリーランス、ギグワーカーらを後押し

新型コロナウイルス問題は、働き方に劇的な変化をもたらしている。それ以前から、ネットなど情報技術の発展などがフリーランス、ギグワーカーなど、働く人が自由なスタイルを選択する流れを後押ししていた。コロナ下で広がる在宅勤務のもとでは、オンラインで働くことがより一般的になり、ネットを通じて仕事を外注することへのハードルも下がったのである。さらにコロナ下では、こうした人々の働き方の変化に加えて、企業側の働かせ方の変化も加わっている。

その代表例が副業の解禁であり、また副業人材の積極活用である。コロナ下でのリモートワークの拡大は、出社を前提とする雇用者の業務・人事管理をより難しくしてしまった。それへの対応策の一つが、「ジョブ型」雇用の拡大なのである。雇用者が出社してその時間を企業が買い取る形から、雇用者の専門性に基づいた成果を企業が買い取る形への転換である。

さらに、働き手が企業に縛られない、あるいは企業が働き手を縛らない流れが、副業の動きを加速させている。当初、副業の解禁は、深刻な人手不足のもとで優秀な人材の流出を防ぐ狙いがあった。副業による収入の増加や、自己の能力を外部で発揮したいという、いわゆる他流試合の欲求を認めることが、人材を確保する手段であった。

副業解禁と副業人材の積極活用

しかし、新型コロナウイルス問題後は、企業側が「ジョブ型」志向を強める中、副業の解禁を機に、働き手が副業を通じてさらに専門性を磨き、それを本業にフィードバックさせる、いわばシナジー効果を狙って副業を積極的に認める企業が増えている。雇用者にとっては、在宅勤務が増加し、通勤時間が減ったことで、副業など新たな挑戦をすることが可能となったことも指摘できる。

2019年から2020年に副業を解禁した主な企業には、アサヒビール、SMBC日興証券、カゴメなどがある。副業を通じて高めた知識やスキルなどを社内の業務に生かすことが期待されている。また、地元経済への貢献、社会貢献を狙ったものもある。

一方で、社員という形ではなく、高い専門性を持つ外部の人材を業務委託の形で積極的に受け入れる企業も増えている。社員がみなリモートワークで働くのであれば、むしろ社外の人材との協業を進めやすくなるのだ。

そうした企業の代表例がヤフーである。ヤフーは2020年10月に、副業人材の104人を受け入れる「ギグパートナー」制度を始めている。7月に募集したこの制度に応募した4,500人超の中から104人を選抜した。事業プランアドバイザー、戦略アドバイザー、テクノロジースペシャリストの3領域でそうした外部人材が既に働いているという。その中には、大手企業のエンジニアや上場企業の経営者もいる。それ以外にも、ライオンやユニリーバ・ジャパンなどがこうした副業人材を受け入れている。

浮かび上がったフリーランスのセーフティーネットの未整備

新型コロナウイルス問題は、特定企業に属さずに、複数の企業との契約で収入を得るフリーランスの抱える問題を浮き彫りにした。コロナショックで収入を失っても、雇用者ではないことから失業保険を受け取ることができない。他方、企業ではないことから、政府が講じた企業向け支援の対象から当初は外れた。企業でも雇用者でもないという立場がもたらす問題が、コロナ下で一気に表面化したのである。

またフリーランスは所得が安定していないことから、クレジットカードを作ったり、マイホームや車のローンを組んだりする際に、平素から不利になるケースも少なくない。

政府は、企業を対象とする持続化給付金制度の対象に、フリーランスを含めるなど、徐々に彼らをセーフティーネットに組み込む動きを見せていった。しかしその場合でも、日本では、フリーランスに仕事を発注する企業が、契約書を発行しないことも多く、それが所得の減少に応じて支給される給付金受取りの障害となったのである。

内閣官房が2020年2月、3月に実施した調査によると、副業を含めたフリーランスは国内に462万人いると試算されている。そのうち取引先とのトラブルを経験したことのある人が4割、そのうち書面や電子メールが交付されていなかったり、取引条件が十分に明記されていなかったりした人が6割に上るという。

そこで政府は、2020年度内をめどに、フリーランスが働く環境を保護するためのガイドラインをまとめる予定だ。そこでは、十分な内容の契約書面を交付しないことは独占禁止法の「優越的地位の乱用」にあたるとして、フリーランスを独占禁止法の保護対象であることを明確にする見込みである。

このことは、フリーランスの働く環境を保護する観点からは明らかに前進である。

しかし、それだけでは、突然の収入減などが生じた際に、フリーランスを所得面からしっかりと支えるセーフティーネットの観点からは十分ではないだろう。企業と雇用者のはざまで、公的なセーフティーネットが及ばないフリーランスには、既存の法律を適用するだけの対応ではなく、新たな立法措置が必要となってくるのではないか。

日本経済の生産性向上、国際競争力向上に貢献

このように、フリーランスに関わる法整備にはなお課題は残るものの、コロナ下でリモートワークを経験した雇用者の中では、自らの能力と在宅勤務に自信をつけ、雇用者からフリーランスに転じる動きも増えている。

3月に東証マザーズに上場するギグワーク仲介大手のココナラには、ネット上でデザインやウェブ制作などのスキルを売買できるサービスを手掛け約200万人が登録し、新型コロナウイルス下での外出自粛などの影響で、副業やフリーランスに転じたいと考える会社員の受け皿となっている。

高い専門性を持つ働き手も、雇用者として特定企業に強く縛られるもとでは、求められる業務が限られることから、その能力を十分に発揮できない面があるだろう。雇用者がフリーランスに転じ、複数の企業と契約する中で、能力を開花できるケースも多いはずだ。また、雇用者としての地位にとどまりながらも、他企業にサービスを提供する副業も広がってきている。その中で、やはり専門性を磨き、本業と副業の間でのシナジー効果を高めることもできるはずだ。

フリーランス、副業などの新たな働き方の広がりは、収入面も含めて個々の働き手のモチベーションを高めるだけでなく、全体としてみれば日本経済の生産性向上、あるいは国際競争力向上に貢献する面もあるだろう。新型コロナウイルス問題を奇貨とするこうした新しい働き方の広がりとその経済効果に大いに期待したい。

(参考資料)
「フリーランス保護進むか、政府、安全網整備へ年度内指針、独禁法・下請法で監視。」、日本経済新聞、2020年10月26日
「特集-コロナ後の会社 人と組織の覚醒-PART1-「コロナ分断」断ち切る境界線はあえて消す」、日経ビジネス、2021年1月11日
「ギグワーク仲介のココナラが上場へ 働き方変化を加速-コロナ下で需要拡大 サービスで競う」、日本経済新聞電子版、2021年2月12日

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