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緊急事態宣言の先行解除と出口戦略

2021/02/24

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一部先行解除でも経済への影響は大きく違わない

現在、10都府県で緊急事態宣言が発令中であるが、大阪府は、兵庫県、京都府と共に、来月7日に予定されている緊急事態宣言の解除を今月末に前倒しするよう、23日に国に対して要請した。愛知県も同様の要請をしている。

これを受けて政府は、24日に関係閣僚と協議し、26日の諮問委員会・政府対策本部で一部地域での緊急事態宣言の先行解除の是非を決定する方向だ。先行解除が決まる可能性は高そうだ。また、関西3府県に加えて中部圏も先行解除の対象となる可能性がある。また、福岡県も先行解除の対象となる可能性がある。

他方、小池東京都知事は、「厳しい状況が続いていることには変わりない」として解除には慎重な姿勢だ。関東圏の4都県については、予定通りに3月7日まで宣言が継続する可能性が高い。

ただし、予定通りに3月7日で緊急事態宣言が期限を迎える場合、期限が近づくこのタイミングで一部地域の先行解除がなされるか否かで、経済活動に与える影響に大きな違いは生まれないだろう。

10都府県で3月7日まで宣言が続く場合には、個人消費の減少分は2か月間の合計で5.8兆円に達する計算だ。これに対して、2月末で関西圏3府県が先行解除される場合には、個人消費の減少分は2か月間の合計で5.7兆円であり、もはや大きな違いは生まれない。さらに、2月末で関西圏3府県に加えて中部圏の2県で宣言が解除される場合でも、個人消費の減少分は2か月間の合計で5.6兆円、福岡県が加わっても5.5兆円であり、やはり大きな違いとはならない(図表)。

(図表)第2回緊急事態宣言2か月間の経済効果

宣言解除に慎重な政府の姿勢

今回の2回目の緊急事態宣言に至る過程では、政府は緊急事態宣言発令にかなり慎重であったとの印象だ。その結果、発令のタイミングが遅れてしまった感があり、そうした批判も受けた。ところが現在では、一転して緊急事態宣言の解除、特に首都圏での解除にかなり慎重な姿勢に見える。短期間で、政府の姿勢は大きく振れたように見える。

その背景には幾つかの要因が考えられる。第1は、世論への配慮を強めたことだろう。昨年末頃には、観光業など企業活動への悪影響に配慮して、政府は緊急事態宣言発令に慎重だったと見られる。ところが、その後に内閣支持率が急落したことも影響してか、緊急事態宣言などを通じた厳しい感染抑制措置を支持する傾向がある世論への配慮を、政府が強めたように思われる。

第2は、ワクチン接種の見通しに不確実性が高まったことだ。ワクチン確保の見通しが俄かに不確実になったことで、ワクチン接種の拡大を通じて感染リスクを抑制するという、当初の目算が狂ってしまった感がある。その分、緊急事態宣言などの感染抑制措置により頼る必要が高まっているのではないか。

第3は、東京オリンピック・パラリンピック開催への配慮だろう。3月から4月にかけては、東京オリンピック・パラリンピックが開催できるかどうかの重要なタイミングである。開催実現に向けては、この時期に、感染をしっかりと抑え込んで置く必要がある。

感染抑制措置の長期化で日本経済は輸出頼みの状況

3月7日ですべての地域で緊急事態宣言が解除されることになるとしても、上記の点から、感染抑制措置は継続される可能性が高いのではないか。ワクチン接種の広がりを通じて集団免疫が獲得されるまでにはかなりの時間が必要で、年内は難しいかもしれない。また、東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まるとしても、それを混乱なく成功裏に終わらせるためには、開催時まで国内での感染を抑え込んでおく必要性は高いだろう。

緊急事態宣言解除後の主な感染抑制措置としては、「まん延防止等重点措置」が有力だ。これは、緊急事態宣言が発令されていない状況においても、それに比較的近い、私権制限を含む規制措置をとることができるようにする規定だ。緊急事態宣言を出す前の段階でも、緊急事態宣言時と同様に、知事が事業者に対して時短営業や休業を命令できるようにし、違反した場合には罰則として過料を科す。違いは、過料の金額が小さいだけだ。

緊急事態宣言解除後は、しばらくは様子を見るかもしれないが、感染再拡大の兆候が広がる場合には、政府はすかさずこの「まん延防止等重点措置」を講じるだろう。名目的には緊急事態宣言とは異なるが、実質的にはそれにかなり近い措置である。

その結果、個人消費を中心に、国内需要の抑制傾向は少なくとも年内いっぱいは続くのではないか。他方、ワクチン接種が日本よりも先行する欧米では、年後半には経済活動の回復傾向がより明らかになっていこう。そのもとで、当面の日本経済は、輸出頼みの状況を脱することは難しそうだ。

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