フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 バイデン政権の経済対策と債券市場の警鐘

バイデン政権の経済対策と債券市場の警鐘

2021/02/25

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

バイデン政権の経済対策には議会外から批判

米国下院予算委員会は2月22日に、バイデン大統領が掲げる総額1兆9,000億ドルの新型コロナウイルス追加経済対策法案を、賛成19、反対16で承認した。26日に下院本会議で可決されるとみられる。3月14日には、コロナ対策としての失業手当の上乗せ期限が切れる。民主党はその前に法案を成立させることを目指している。

ただし、最終的な経済対策の内容や規模についてはなお流動的であり、民主と共和の勢力が拮抗する上院では、修正される可能性がある。例えば、連邦レベルの最低時給を15ドルに引き上げる条項を含めるかどうかで、意見が分かれている。最低賃金の引き上げが低所得者の所得増加につながる可能性があることが期待される一方、人件費増加が失業を増加させることも懸念されているのである。

共和党も含めたコンセンサス重視の政策決定を志向しているバイデン大統領であるが、予算規模を抑えることを主張する共和党と、民主党の長年の優先課題に対応する包括的な法案を期待する民主党急進左派との間で板挟みの状態にある。

さらに議会の外でも、バイデン政権の経済対策案は批判を浴びている。ラリー・サマーズ元米財務長官とオリビエ・ブランシャール元IMF(国際通貨基金)チーフエコノミストは、バイデン政権の経済対策案が景気を過熱させるリスクがあるとの見方を揃って示している。ブランシャール氏は、この対策が「一部で予測される2.5%(の物価上昇率)ではなく、潜在的にそれをはるかに上回る」物価上昇率の加速を生じさせ、結局は「大幅な金利引き上げ」につながる可能性があると指摘している。

こうした指摘は、債券市場の懸念とも共通しているものだ。米国の10年財務省証券利回りは上昇傾向を強めており、足もとでは一時1.4%台と昨年3月初め以来の水準となっている。さらに、インフレ連動債に示される市場のインフレ予想も、一時2014年以来の高水準に達した。

バイデン大統領は既に次の経済対策を準備

新型コロナウイルス追加経済対策法案の成立の目途がまだ立たない中にもかかわらず、バイデン政権は相当規模の次の経済政策を打ち出す準備を進めているとウォール・ストリート・ジャーナル紙は報じている。バイデン大統領は、元同僚らとホワイトハウスで会合を開き、電話で協議するなど次の法案の下地作りを始めているという。また、バイデン大統領と顧問団は、水面下でこの件を、数週間前から議員や議員側近などと話し合っているという。

新しい景気対策の具体的な中身は不明であるが、インフラ投資が中心となる可能性がある。バイデン大統領は4年間で2兆ドル規模の地球温暖化対策中心のインフラ投資計画を選挙公約としていた。仮にこれが次の経済対策である場合、今回の新型コロナウイルス追加経済対策法案の規模をさらに上回る可能性がある。これは、債券市場にとって懸念材料となろう。

名目金利上昇の背景は様々

既に述べたインフレ連動債に、足もとで気になる動きが見え始めている。今までは予想物価上昇率(期待インフレ率)の上昇傾向が顕著であった。これは、経済環境の改善を映した「良い金利の上昇」ともみなされてきた。

しかし足もとでは、名目金利から予想物価上昇率(期待インフレ率)を引いた実質金利が上昇し始めている点が注目される。過去1週間余りのうちに、それは0.2%程度と一気に上昇したのである。

名目長期金利は、実質長期金利と予想物価上昇率の合計で決まる。さらにその実質長期金利は、金融政策で決まる実質短期金利の見通しとそれ以外の要因で決まる。それ以外の要因は、タームプレミアムと呼ばれる。タームプレミアムは、経済の潜在力の変化、それ以外の様々なリスクプレミアムで決まるのである。

この点から、足もとの実質金利上昇の一つの背景は、金融政策の先行きの見通しの変化によって引き起こされている可能性がある。米連邦準備制度理事会(FRB)は物価上昇率の上振れを容認する姿勢を強調しているが、実際に物価上昇率が高まれば、早めに金融引き締めに動く可能性があるとの観測が市場に浮上しているのではないか。

これは、予想外に早い政策転換への観測が長期金利の上昇とグローバルな金融市場の混乱を誘発した、2013年のテーパータントラムを想起させるものだ。

「双子の赤字」のリスクを高めていないか

2つ目の背景は、タームプレミアムの中のうち、財政リスクや為替リスクが上昇している可能性である。トランプ前政権の財政拡張策にバイデン政権の財政拡張策が上乗せされることで、財政悪化傾向が加速してそれが財政リスクを高めている。それと同時に貿易赤字が拡大することで、ドルの信認も低下し始めている可能性があるのではないか。いわゆる「双子の赤字」によって、悪い金利上昇、悪いドル安のリスクが高まっている可能性が出てきたのである。

バイデン大統領は、財政政策を巡って、議会で共和党と民主党急進左派との調整を進めるだけでなく、債券市場の警告にも十分な注意を払う必要があるのではないか。仮にそれを無視すれば、グローバルな金融市場と経済の混乱を招き、発足間もない政権の大きな失点となってしまう可能性もあるだろう。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn