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日本の株価急落と日銀の『金融緩和の点検』

2021/02/26

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米国の株高は「コロナのあだ花」

26日の東京市場では、長期金利の上昇と株価の急落が見られている。日経平均株価は、一時900円を超える大幅下落となった。コロナショックで国内経済の低迷が続く中、日経平均株価は堅調に推移し足もとで3万円台に乗せるまで上昇したのは、米国の株高に牽引されたことが最大の理由である。そして26日の5年振りの水準に達するまでの長期金利の上昇と株価急落の相当部分は、同様に米国の要因によるものだ。

日本を含めて世界の株高をリードしてきた米国の株高は、新型コロナ問題がきっかけであり、米国の株高は「コロナのあだ花」と言えるのではないか。それは3つの要因による。第1は、コロナ下での巣ごもり消費が、株価指数の主要構成銘柄であるテクノロジー企業の業績に強い追い風となったこと、第2は、在宅傾向の高まりがロビンフッダーなど素人の個人投資家による株式投資を急増させたこと、第3が、コロナショックへの対応で米連邦準備制度理事会(FRB)が積極的な金融緩和を実施したことだ。

「良い金利の上昇」から「悪い金利の上昇」へ

米国がコロナショックからの回復を続ければ、株式市場にとってのこうした3つの追い風が弱まっていき、逆風へと変わっていくだろう。経済が低迷する中で株価が上昇した局面とは逆に、米国経済が改善する局面では今度は株価が上昇しにくくなることは、自然のことのように思われる。それが株高局面の一巡に留まるのか、足もとの株価の調整が続き、明確な調整局面となるのかはまだ分からない。

ちなみに、米国の長期金利上昇は、経済環境の改善を映す「良い金利の上昇」局面から、財政悪化や物価情勢の不安定化などを反映する「悪い金利の上昇」局面に移ってきている可能性がある。新たな物価目標政策を巡るFRBと市場との間のコミュニケーション上の問題も、背景にあるのではないか(コラム「米国金融市場動揺のリスクとパウエル議長の再任を賭けた挑戦」、2021年2月26日)。

前向き感のある説明で副作用対策の本質を覆い隠す「金融緩和の点検」

ところで、本日の日本での株価急落の要因のかなりの部分は米国要因によるものであるが、一部には日本側の要因もある。それが、日本銀行が3月に発表する「金融緩和の点検」だ。この中には、長期金利のさらなる変動拡大と長期金利の上昇を容認する修正が含まれる、との観測が市場にある。それが、米国の長期金利と日本の長期金利との連動性を足もとで強めたように見える。

「金融緩和の点検」の本質は、イールドカーブのスティープ化を促すことで、金融機関の収益を助け、また、少なくとも株高局面ではETFの買入れを今よりも減らすといった柔軟化策であり、副作用対策であり、また事実上の正常化策の一環であると考えられる(コラム「日銀『金融緩和の点検』と長期金利目標短期化の可能性」、2021年2月12日)。

しかし、日本銀行は、そうした政策の修正の本質、本当の狙いを覆い隠すように、「コロナショックでいったん失われた2%の物価目標の達成に向けた、より効果的で持続的な政策」であると、前向き感を最大限強調することだろう。

市場動向に配慮して日本銀行は「金融緩和の点検」を微修正も

足もとでの長期金利上昇は、金融機関の収益改善に配慮する日本銀行にとっては好ましいものではあるが、その動きがあまりに急激であり、また株価急落を誘発する場合には、市場の安定確保に動く必要が出てくる。

今後の対応としては、長期国債買入れオペの増額や、臨時オペ実施の可能性がある。10年国債金利の現在の変動幅の上限は0.2%程度であり、現状の金利水準はその上限に達していないが、今後10年国債金利がさらに上昇ペースを速めて0.2%に近付く、あるいは0.2%を超える場合には、日本銀行が一定の金利水準で無制限に国債を買い入れる固定金利オペを実施して、金利上昇を強く牽制する可能性が出てくる。それによって、国内債券、株式市場の安定回復に一定程度効果が発揮されるだろう。

「金融緩和の点検」では、10年国債金利やそれよりも短い金利の上昇を促す狙いであると思われるが、臨時オペで金利上昇を強く牽制すれば、そうした足もとの政策との矛盾が出てきてしまう。この点から、市場の動揺が今後も続くようであれば、金利上昇を容認するというタカ派的な色彩を弱める、あるいは建前上の説明ではハト派色をより強めるなど、日本銀行が「金融緩和の点検」の微修正を講じる可能性が出てくるのではないか。

日本銀行が昨年年末に「金融緩和の点検」を予告し、3月の発表までに長い時間を確保した背景には、その間の内外市場の動向を見極め、必要に応じて微修正ができるようにと考えた可能性がある。特に3月の期末には、市場の混乱から金融機関の収益に顕著な悪影響が及ばないように、日本銀行も十分に配慮するだろう。

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