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アント・グループの再編と改めて注目される上場延期の秘密

2021/03/03

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中国のネット融資に新たな規制

中国の電子商取引大手アリババグループ傘下の金融会社アント・グループは、金融持ち株会社を設立し、その傘下に現在の多くの金融事業を組み込む、大規模再編の検討を続けている。これは、当局の求めに応じる措置であり、その結果、資本規制など銀行並みの強い規制を受け入れることになる。

また2月には、アント・グループを標的にしたとみられる、新たな規制が発表された。中国銀行保険監督管理委員会(銀保監会)が発表したこの規制では、プラットフォーム企業は銀行との協調融資額の少なくとも30%を自己資金でまかなうことを求められる。さらに銀保監会は商業銀行がテック企業と協調で行うオンライン融資への支出額に上限を設ける。この新しい規制は、2022年から適用される予定だ。

2020年11月にアント・グループが上場延期に追い込まれた際に、規制当局が特に問題視していたのは、その融資(与信)業務だった。近年では、この融資業務が、アント・グループの主要な収入源となっていたのである。2020年度上半期の事業別収益では、当初本業であった決済関連が260億元(約4,160億円)であったのに対して、融資関連が約286億元(約4,576億円)と初めて逆転している(注1)。

中国の消費者金融分野では近年、シンジケートローン(協調融資)の形態が拡大している。アント・グループが融資するのはシンジケートローン全体の平均で2%程度であり、それ以外は他の金融機関が提供する。そしてアント・グループのこの融資業務を支えるのは、AIを用いた独自の信用リスク計測システムである。アリペイがビッグデータを用いたAI信用判定を行い、それに基づいて他の銀行が貸出をする。アント・グループは自身の融資を通じた金利収入とは別に、提携先金融機関の金利収入から15%前後の高いAI信用判定の手数料を得ているという。

しかし、資本規制と今回の規制により、アリペイの融資の規模は縮小を余儀なくされ、融資業務での収益性はかなり落ちることが避けられない。

アント・グループ上場延期の一因は国内政治闘争の影響か

ところで、昨年11月のアント・グループの上場延期は、1万6,000人余りのアント・グループの社員の士気を、かなり下げているという。社員の多くは株式型報酬を受け取っており、上場で多額の利益を得るはずだったからだ。同社の企業評価額は昨年秋の時点で3,000億ドルを上回り、2018年半ばの資金調達時の2倍になっていた。アント・グループの井賢棟会長は、現在、経営陣が報酬とインセンティブの見直しを進めていると説明している。社員が保有する一部株式を買い戻す、換金プログラムが導入される可能性が高いという。

そして、アント・グループの上場で利益を得るはずだった株主は、会社関係者以外にも多くいたようだ。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙(注2)は、アント・グループの上場の数週間前になって、中国政府が目論見書の中でアント・グループの複雑かつ曖昧な所有構造を発見しそれを問題視した、と最近になって報じている。それが、上場延期の一因になったのだという。アント・グループの株を保有していた人物には、習近平国家主席の政敵となる関係者も含まれていた。その一つが、習近平国家主席が汚職撲滅運動で追放した江沢民元国家主席の一族が創業者に名を連ねる、プライベートエクイティ(PE)だという。

仮にこの報道が正しいとすれば、アント・グループの上場が直前に延期され、その後、大幅な再編に追い込まれている背景には、アリババグループの創業者であるジャック・マー氏が金融当局を批判し、習近平国家主席を怒らせたとされること、膨大な個人データを集め、それを利用して金融サービスで巨額な利益を上げているアント・グループの影響力を低下させる当局の狙いに加えて、このような国内の政治闘争も絡んでいたことになる。

(注1)「特集2 アリペイの真実 幻の30兆円上場」、週刊ダイヤモンド、2020年12月12日
(注2)"China Blocked Jack Ma’s Ant IPO After Investigation Revealed Likely Beneficiaries", Wall Street Journal, February 18, 2021

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