東京オリンピック・パラリンピックで海外観客受入れ見送りの場合の経済損失試算
海外からの観客受け入れを見送る方向との報道
3月3日の毎日新聞電子版は、今夏の東京オリンピック・パラリンピックについて、政府が海外からの観客の受け入れを見送る方向で調整に入った、と報じた。国際オリンピック委員会などと協議して、月内に最終判断をする。
国際オリンピック委員会のバッハ会長は2月24日には、東京大会に外国人観光客を受け入れるかどうかの判断の時期について4月終わりが適切だ、という考えを明らかにしていた。判断時期は前倒しとなったようだ。実際、新型コロナウイルス対策が難しいことから、海外観客を受け入れないとの決定を最終的に下す可能性は比較的高いのではないか。
その際に気になるのは、経済効果がどの程度損なわれるのか、という点である。これについては不確実性がかなり高いが、以下では概算を試みてみたい。
国土交通省の資料(2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けた都市鉄道の取組)によると、チケット販売数の見通しは、オリンピックで約780万枚、パラリンピックで約230万枚、合計で約1,010万枚である。
他方、毎日新聞電子版の報道によると、海外からの観客は100万人規模と想定されているという。仮に、海外観光客が一人当たり5試合を日本で観戦するとすれば、海外で購入されたチケットは500万枚程度、全体の約50%となる。
さらに、チケット販売の売上見通しは約900億円である。そのおよそ50%に当たる海外客向けが無効となれば、チケット販売の収入減少は約450億円程度となる。
海外客のチケットを無効とした分を国内客に販売すれば、こうした経済損失は生まれないが、その可能性は高くないだろう。そもそも感染対策の観点から観客数は抑える方向にあり、実際には国内客も受け入れない無観客での開催となる可能性さえ十分に考えられる状況だ。この点から、海外客のチケットが無効となった分は、そのまま経済損失になると考えて良いのではないか。
経済損失は2,000億円規模か
他方、オリンピック・パラリンピック東京大会の観戦目当ての海外客が訪日をやめれば、その分、宿泊費、飲食費、交通費などの支出がなくなり、それも日本にとっては経済損失となる。
新型コロナウイルス問題が本格的に生じる前の2019年には、海外からの訪日外国人観光客数は3,188万人であった。他方、訪日外国人観光客が日本で宿泊費、飲食費、交通費などに支出した、いわゆるインバウンド消費は4兆8,113億円であった。これから、一人当たりのインバウンド需要は15万1,000円程度と計算される。
海外からの観客100万人が日本で使う宿泊費、飲食費、交通費などの支出は、1,511億円となる。海外からの観客を受け入れないとなれば、その分が経済損失となる。
これに海外客のチケットキャンセル分の450億円を加えると、経済損失の合計は1,961億円となる。これは1年間のGDPの0.03%程度である。日本の景気動向を大きく左右するほどの規模ではないが、それでも相応の経済損失額であることは確かだ。