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総額表示の義務化とユニクロの9%値下げ

2021/03/15

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総額表示の義務化にユニクロは値下げで対応

商品価格に消費税分を加えた「総額表示」が、この4月に義務化される。消費税が導入された1989年には価格表示に関する規定はなく、税抜き価格と税込み価格とが混在していた。消費者が支払う金額をわかりやすくしようと、政府が最初に総額表示を義務付けたのは、2004年になってからのことだ。

ところが、消費税率を5%から8%に引き上げる前の2013年10月に、条件付きで税抜き価格での表示を認める特別措置が認められた。当時は、短期間のうちに2回の税率引き上げ実施が予定されていたため、店側の税込みの値札を付け替えることの手間や費用に配慮したのだ。その措置が今年4月に失効するのである。

現在「税抜き価格+税」といった形で価格が表示されている場合には、4月からは税込みの価格を示す必要がある。税抜き価格と税込み価格を併記することは認められる。

総額表示の義務化によって、消費者には支払う価格が一目で分かるようになるというメリットがある。他方で事業者は、消費者が値上げと感じて売り上げに悪影響が出ることを警戒している。総額表示の義務化への企業の対応はまちまちであるが、もっとも注目を集めているのは、ファーストリテイリングの値下げ戦略だ。

傘下の衣料品大手ユニクロとジーユー(GU)が、3月12日から全商品を実質的に約9%値下げしたのである。従来の税抜き価格をそのまま税込み価格とすることで、実質的に約9%の値下げとなる。

企業の対応はまちまち

コロナ禍のもとでの巣籠り傾向、リモートワーク傾向によって、ビジネス服などの販売は低迷を続けているが、ユニクロは普段着が主力商品であることもあり、感染拡大の下でも業績は好調だ。いわば勝ち組企業である。

そうした企業が、総額表示の義務化のタイミングで値下げに踏み切ったことで、同業他社にも追随を促す可能性が考えられるところだ。総額表示の義務化は、コロナ禍で強まるデフレ的な傾向をさらに後押しする可能性があるように思われる。

ところが実際には、アパレル業界では総額表示義務化に伴う実質値下げは一般的ではないようだ。しまむらは、年明けから税込み価格と税抜き価格の併記に切り替えている途中だ。同社は2019年10月の消費増税時に増税分を価格に反映せずに実質値下げをしているため、今回は事実上価格据え置きとなりそうだ。オンワード樫山、三陽商会なども、淡々と総額表示への切り替えを進めているだけのようである。

他業種での対応はまちまちだ。ニトリホールディングスは価格表示の変更のみを進めているようだ。良品計画の「無印良品」は従来から消費税込み価格表示であるため、変更はない。イオンリテールの総合スーパーやイトーヨーカドーは、今までも税抜き価格と税込み価格を併記しており、やはり変更はない。

他方で、値上げの動きもある。「モスバーガー」は4月から、商品の6割について10円~50円の値上げをする予定だ。税込み価格の端数を切り上げたり、人件費や物流費が膨らんだ分を転嫁したりするという。

コロナショック下で価格下落圧力は続く

総額表示の義務化を理由に、国内物価全体が大きく変動する可能性は低そうだ。しかし、コロナショックの影響で国内経済は低迷を続けており、それは4月の価格改定時期には下方圧力となる可能性がやはり高いのではないか。

2020年度の日本の実質GDP成長率は予測機関の平均で-5.3%程度である。需給ギャップが同規模だけ悪化するとした場合、日本銀行の計算に基づくと、半年先から1年後の物価は2.0%程度も押し下げられることになる。2021年度の物価には、かなりの下落圧力がかかりそうな状況だ。ここに携帯通話料金の大幅値下げの影響が加わるのである。

こうした物価環境が、「緩やかな物価下落が常態」という認識を再び消費者に広めていく場合には、それに対応して企業は、否応なしに値下げ戦略に追い込まれていくことになるだろう。

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