フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 初めて適用される『まん防』による経済損失試算

初めて適用される『まん防』による経済損失試算

2021/04/01

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

関西・東北6都市で「まん防」適用

政府は、新型コロナウイルスの感染拡大が顕著な大阪府、兵庫県、宮城県の関西・東北3府県に対して、改正特措法で新たに導入された「まん延防止等重点措置」、通称「まん防」を初めて適用する。専門家による基本的対処方針分科会で方針案が了承された後、1日夕刻の政府の新型コロナ対策本部で正式に決定される。

期間は4月5日から5月5日までの1か月となる。3府県の知事らは、大阪市、神戸市、仙台市、西宮市、尼崎市、芦屋市の6都市を対象とする方針だ。

緊急事態宣言と「まん防」との差は大きくない。緊急事態宣言は政府が都道府県単位で発令するのに対して、「まん防」では、対象区域となった都道府県知事が、さらに市町村単位で対象区域を決めることができる。また、緊急事態宣言では、事業者に休業・時短要請及び命令ができるのに対して、「まん防」では、時短要請及び命令ができる。さらに、緊急事態宣言では、休業・時短命令に従わない事業者に30万円以下の過料(軽い行政罰)を課すことができるのに対して、「まん防」では、時短命令に従わない事業者に20万円以下の過料を課すことができる。

「まん防」と緊急事態宣言の差は大きくない

それぞれの運用にあたっては、緊急事態宣言は感染リスクの程度が政府の示す「ステージ4」での発令を想定しているのに対して、「まん防」は「ステージ3」での適用を想定しており、「ステージ2」でも適用することがある、と政府は説明してきた。

「まん防」は実質的には、名を変えた緊急事態宣言と言っても過言ではないだろう。今年1月8日に始まった2回目の緊急事態宣言が3月21日に解除されてからわずか2週間で「まん防」の適用を余儀なくされたことは、政府が感染拡大に対して次第に打つ手がない状況に追い込まれつつある、との印象を与える。

「まん防」の適用期間を5月5日までとしたのは、感染拡大リスクが高まるゴールデンウイークを意識したものだろう。他方、首都圏でも新規感染者数が再拡大する傾向が強まっている。政府が早晩、首都圏にも「まん防」を適用する可能性は、比較的高いのではないか。その場合、やはりゴールデンウイーク中の感染抑制を狙って、4月12日から5月5日までとする可能性などが考えられる。

関西・東北6都市「まん防」1か月間で経済損失は1,550億円

以下では、関西・東北6都市での「まん防」適用の経済効果について試算した。ここでは、「まん防」が個人消費を減少させる経済損失の額を、緊急事態宣言の3分の2と仮定した。これは、両者の過料の額の違いが経済効果の違いに反映される、との考えに基づいている。

関西・東北6都市で「まん防」が1か月間適用された場合、経済損失(個人消費の減少)は1,550億円程度と推定される(図表)。これは年間GDPの0.03%程度の規模である。また、失業者はそれによって6,100人程度増加する。

また、仮に4月12日から首都圏4都市(東京23区、横浜市、千葉市、さいたま市)で3週間の「まん防」が適用される場合、経済損失(個人消費の減少)は4,630億円程度となる計算だ。

両者を合計すると、経済損失の規模は6,180億円程度となる。これは、1月8日から3月21日まで実施された緊急事態宣言による経済損失の試算額6兆2,800億円の10分の1程度の規模である。しかしながら、「まん防」の期間はさらに延長され、また対象区域もさらに広がる可能性があり、そうなれば経済損失は一段と大きくなる。

また、「まん防」に名を変えた実質的な緊急事態宣言が長期化する中で、この先、企業の倒産や廃業が増えていき、それが失業者の増加へとつながっていく可能性が考えられる。幅広い分野での事業者の支援と、雇用調整助成金制度、休業支援制度のさらなる利用促進を通じた雇用者支援などが、政府の対策としては当面欠かせない。

(図表)「まん防」適用による経済損失の試算

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn