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中国当局がアリババに独占禁止法違反で巨額罰金

2021/04/12

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アリババ・グループの「二者択一」の慣行が独占禁止法違反

中国で競争政策を担う中国国家市場監督管理総局(SAMR)は4月10日に、電子商取引最大手のアリババ・グループが独占禁止法に違反したとして、罰金180億元(27億5,000万ドル)を科したと発表した。当局は、昨年末に独占禁止法違反でアリババ・グループへの調査を始めてからわずか4か月未満で結論を出した形だ。今回の罰金額は同社の2019年の国内売上高の4%にあたり、独禁法違反の罰金額としては中国で過去最大とみられる。

当局は、アリババ・グループが2015年から市場における支配的地位を乱用してきた、と結論付けている。具体的には、自社通販サイトの出店者が他のプラットフォームに出店することを禁止する、「二者択一」の慣行が独占禁止法違反にあたる、とした。当局は、徹底した改革によりコンプライアンス(法令順守)強化と、消費者の権利保護をアリババ・グループに合わせて指示している。これに対してアリババ・グループは、「処罰を受け入れ従っていく、コンプライアンスを強化し、社会的責任を果たしていく」との声明を出している。

「先放後管」、「後出しじゃんけん」の独占禁止法適用

電子商取引市場で圧倒的なシェアを握るアリババ・グループは、その市場支配力で中小・零細企業を破綻に追い込み、また優越的な立場を利用して、取引先に対して不当な圧力をかけるという行為が長年問題視されてきた。

中国では2008年に独占禁止法が施行されたが、今まではアリババ・グループのような巨大ネット企業、プラットフォーマーは、この独占禁止法の対象からは事実上外されてきた。高いイノベーションを持つ新たな産業を育てる観点から、当局は、当初はそうした企業、産業を放任しておき、法的にグレーな部分も黙認する。そして、深刻な問題が浮上してから初めて、管理・規制の強化に乗り出すのである。こうした姿勢は「先放後管」と呼ばれるが、中国政府のいわば常とう手段である。「後出しじゃんけん」とも言えるだろう。

政府の2021年の経済政策運営上の重点課題の一つが、「独占禁止と資本の無秩序な拡大防止」だ。この「資本の無秩序な拡大防止」という表現には、習近平国家主席下での「国進民退(国営企業が躍進し、民営企業が後退する現象)」の流れをさらに進める、という中国政府の強い意志と、民間企業に勝手なことはもはや許さない、という強い決意の双方が感じられる。

アリババとアリペイへの対応に差か

アリババ・グループ傘下でデジタル決済アプリのアリペイを提供する金融プラットフォーマーのアント・グループに対しては、当局はその金融事業を事実上分割した上で、それらを金融持ち株会社の傘下に置き、厳しく監視・監督していく方向である。アント・グループに対するこうした厳しい対応と比べると、巨額の罰金を科し、コンプライアンスの強化を求めたとは言え、アリババ・グループへの対応の方がよりマイルドな感もある。

これは、アリババ・グループの電子商取引は、既に国民の間で広く利用されているため、仮にそのビジネスに大きな転換を迫ると、社会的な影響が大きくなることに当局が配慮したためではないか。また、それが、国民から強い批判を受ける可能性にも配慮した可能性もあるだろう。同様の理由で、アント・グループのアリペイを用いた決済業務については、他の金融分野とは別格とし、当局は大きな転換を迫らない可能性が考えられている。

中国当局が、プラットフォーマーに対する統制強化を進める中でも、既に社会に定着したプラットフォームについては、一気に潰すようなことは避けるだろう。アリババ・グループに対する独占禁止法違反の疑いでの当局の調査や、今回の巨額の罰金については、アリババ・グループのビジネスを大きく変えることを狙った、というよりも、当局との間に軋轢が生じている創業者のジャック・マー氏の影響力を削ぐという点に、当局の大きな狙いがある、との指摘も聞かれるところだ。

(参考資料)
"Alibaba Hit With Record $2.8 Billion Antitrust Fine in China", Wall Street Journal, April 10, 2021

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