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アント・グループが金融持ち株会社に移行

2021/04/14

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アント・グループは当局の軍門に下る

中国電子商取引大手アリババ・グループの傘下で、デジタル決済アプリを提供するアント・グループの再編案がまとまった。

昨年11月にはアント・グループの上場計画が、直前になって突然延期された。ここから同社に対する当局の統制強化が始まり、昨年末には当局の要請に応えて、アント・グループが金融持ち株会社を設立し、そこに現在の金融事業の大半を移管することを検討している、と報じられた。金融持ち株会社を設立すれば、銀行と同様の規制を受け入れることになる。それは、アント・グループが当局の軍門に下ることを意味するのである。

中国人民銀行(中央銀行)は4月12日に、銀行、証券、外為の各当局を含む4つの規制当局とアント・グループ代表者らとの3度目の会合を開いたと明らかにした。さらに、当局の監督下でアント・グループを再編する「包括的で実行可能な計画」がまとめられた、と述べた。これを受けてアント・グループは、アントは「改善策を真剣に実行する」と述べるとともに、金融持ち株会社の設立申請を行った。

当局が求めているのは、すべての金融部門を持ち株会社に組み入れ、当局監督下に置くこと、に加えて、アリペイを通じた情報の独占を止めさせること、消費者ローン事業の厳格な規制受入れ、である。さらに、主力ファンドの商品の流動性リスクを抑え、マネー・マーケット・ファンドの「余額宝」の規模を縮小することも当局は求めたという。

情報独占と情報流用の禁止

中国人民銀行は、「包括的で実現可能な再編計画」を通じて、アント・グループはアリペイと、短期消費者ローン「借唄(ジエベイ)」、クレジットサービス「花唄(ファーベイ)」の「不適切な」関係を断ち切ると述べた。当局が当初から問題視してきたのは、アント・グループがアリペイを通じて個人の決済情報を大量に入手するとともに、それを信用リスク判断に用いることで、消費者ローン分野で巨額の利益を上げてきたことである。

ビッグデータの収集、分析を活かすことで、金融業務で既存の金融機関に対して一気に優位に立ち、独占状態を確立してしまうことは、プラットフォーマーの金融分野参入では一般的に起こり得ることだ。今回の中国の規制強化は、プラットフォーマーに対する金融当局の規制としては、世界に先駆けた動き、と言えるだろう。最も重要な点は、決済分野で獲得した情報を、融資など他の金融分野で利用しないように規制することだ。

アント・グループは規制を受け入れ生き残りの道を選んだ

アント・グループの再編計画は、最終的に劉鶴副首相がトップを務める金融安定発展委員会の承認を得る必要がある。ただし、遠くない将来に、最終決定される可能性が高い。

中国政府は、4年前から金融システムのリスクを一掃する取り組みを続けてきた。習近平国家主席は2020年11月に、金融当局に対し監督の役割を強めるよう求め、こうした規制強化にお墨付きを与えたのである。その中で、世界一の規模にまで膨らんだアリババ・グループ、アント・グループがその標的に定められた感が強い。

アント・グループの再編は、当局がいよいよ、金融分野でのプラットフォーマーへの統制を、本格的に強化し始めた証拠と言える。そのもとで、アント・グループなどプラットフォーマーの金融部門、いわゆる金融プラットフォーマーには、①金融ビジネスから撤退していく、②金融業の発展に資するサービスを提供する文字通りのプラットフォーマーに特化していく、③規制を受け入れて正式な金融業者に近付いていく、の3つの道のいずれかを選ぶことを強いられる。

アント・グループは、規制強化を受け入れることで当局に潰されることを免れ、生き残る道を選んだのである。ただしその結果、従来のように巨額の利益を上げることは難しくなることは間違いない。アント・グループが再び上場するようなことがあるとしても、その際の企業価値は、上場延期以前と比べてかなり小さく市場に評価されるだろう。

一方、当局の規制強化のもとで、アント・グループが革新的なビジネスモデルを展開し、イノベーションを引き起こしていく芽も摘まれてしまった感がある。

(参考資料)
"Jack Ma’s Ant Group Bows to Beijing With Company Overhaul", Wall Street Journal, April 12, 2021
「中国アント、金融持ち株会社に再編」、ロイター通信ニュース、2021年4月12日
「中国が進める金融リスク一掃、標的は世界一のフィンテック市場(1)、(2)、ChinaWave経済・産業ニュース、2021年1月29日

 

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