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日米首脳会談で試される日本の地球温暖化対策の本気度

2021/04/15

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バイデン大統領は日本に地球温暖化対策積極化を期待

4月16日に、対面形式で初の日米首脳会談がワシントンで開かれる。日米同盟の重要性確認に加えて、中国に関わる安全保障問題や人権問題などが主なテーマとなる(コラム「日米首脳会談の注目は日中経済関係への悪影響」、2021年4月14日)。

それに加えて、バイデン政権が国際的な主導権を握ることを目指す地球温暖化対策も議論される。バイデン米大統領が主催する気候変動サミットが4月22、23日にオンライン形式で開催されるが、これに向けバイデン大統領は、菅首相に対して地球温暖化ガスの削減に向けたさらなる取り組みを要請する可能性があるだろう。

この日米首脳会談と重なる形で、ケリー大統領特使(気候変動問題担当)が14日~17日の日程で上海とソウルを訪問する。上海では中国の気候問題担当特使、解振華氏と会談する見通しだ。バイデン大統領は習近平国家主席を気候変動サミットに招待しており、ケリー特使はその最終調整をするとみられる。

先月、米国のアンカレッジでの会談で、米中高官は激しく対立したが、ケリー特使には中国との関係改善を図るミッションがある、との指摘も一部に聞かれる。しかし実際には、気候変動問題というテーマに絞った議論になるとみられる。

ケリー特使は13日のCNNテレビで、中国が世界最大の温室効果ガス排出国だと指摘し、「中国の協力なしに気候危機を解決できない」と強調している。また、米中間には主要問題で対立が多いが「気候変動は別だ」として、協調の必要性を訴えた。

他方、「気候変動での協調を中国から引き出すために、安全保障問題、人権問題などほかの分野で米国が中国に譲歩するようなことはない」との趣旨の発言もしている。

注目は2030年の中間目標に移っている

地球温暖化対策でバイデン政権が世界を主導し、世界最大の温室効果ガス排出国である中国にさらなる取り組みを呼びかける際に、同盟国である日本の対応の遅れが障害になる可能性があるのではないか。そのため、バイデン政権が日本に対してもさらなる積極的な対応を明示的に、あるいは暗に求める可能性があるのではないか。今回の日米首脳会談では、そうした日本の積極的な取り組みの姿勢が試される場となる。

菅首相は、2050年のカーボンニュートラルの達成目標を掲げた。しかし、それを遠い将来の目標で終わらせずに現実味のある目標とするために、2030年の中間目標へと世界の関心はすでに移っている。22日の気候変動サミットや6月のG7サミット(主要7か国首脳会議)に向けて、各国は新たな2030年の温室効果ガス排出削減目標を打ち出してくる可能性もある。それによって、2050年のカーボンニュートラルで海外に対する遅れを何とか挽回したように見えた日本が、再びこの分野で他国に遅れをとる可能性が出てきてしまったのである。

地球温暖化対策は日米協調体制に重要

パリ協定が求める2030年の削減目標を巡っては、すでに欧州連合(EU)が1990年比55%減、英国が同68%減へと目標を引き上げており、米国も2005年比50%減を検討中、とされる。今後はさらに目標を引き上げる動きが続く可能性があるだろう。

一方日本の現時点での目標は、2030年度に2013年度比26%減である。2050年のカーボンニュートラルの達成目標と整合的にするためにも、この2030年の目標引き上げは必至であり、日本はそれを早急に実現する必要に迫られている。

2030年度目標について、気候変動対策に積極的な環境省は45%減、対策積み上げによる目標策定を重視する経済産業省は35%減を主張しているとされる。朝日新聞によると、他国の基準年を日本が採用する2013年度に近い2013年と仮定して比べると、EUは43%削減、米国は45%削減になるという。この点を踏まえると、環境省が主張する45%減に近い目標を設定しないと、欧米の目標に見劣りしてしまう。実際、環境省の主張に近い形で、決着に向かっているという。

一方、米国や英国は50%減にまで引き上げるよう、日本に対して働きかけを強めているとの報道が14日にあった。日本はさらなる目標の引き上げを迫られており、政府内では調整が進められているだろう。菅首相は、目標引き上げの考えを日米首脳会談でバイデン大統領に伝え、その感触を確かめようとするだろう。

このように、米国は民主主義や人権といった価値の共有を同盟国側に求めるだけでなく、積極的な地球温暖化対策の実現も強く求めていくことになる。仮に日本がそれに十分対応できなければ、対中、対北朝鮮政策を巡る日米の協調体制にも好ましからざる影響が生じる可能性があるだろう。

(参考資料)
"John Kerry Says U.S. Will Hold China to Account on Climate Pledges", Wall Street Journal, April 14, 2021
「ケリー米特使、14日に上海へ 国務省発表」、2021年4月14日、日本経済新聞電子版
「温室ガス削減、40~45% 2030年の目標引き上げ、政府調整」、2021年4月13日、朝日新聞

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