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気候変動サミットで浮き彫りになる先進国と新興国・途上国との軋轢

2021/04/23

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30年削減目標の引き上げを競う先進国

オンライン形式での米国主催の気候変動サミットが、4月22日(米国時間)に始まった。先進国は競って2030年の温暖化ガス削減目標を引き上げ、地球温暖化対策での積極姿勢をアピールした(コラム「30年温室効果ガス削減目標で追い込まれる日本」、2021年4月22日)。

他方、排出量世界1位の中国、3位のインド、4位のロシア(2位は米国)は、いずれも目標の引き上げは見送った。先進国と新興国・途上国の間での温度差が改めて浮き彫りになっている。先進国が温暖化ガス削減を積極的に進めても、新興国・途上国で排出量が増加すれば、その効果を相殺してしまう。地球温暖化対策は、先進国と新興国・途上国との協調なしには進まないことから、両者の協調の試金石となる分野だ。他方、この分野での協調が実現できれば、その他の分野へと協調が拡大していくきっかけとなる可能性もあるだろう。

2030年の温暖化ガス国別削減目標で、米国は2005年比で50%~52%の削減目標を示した。オバマ政権が掲げた「2025年までに2005年比26~28%減」という目標を大幅に引き上げた。またカナダは同40~45%の削減、日本が2013年度比46%の削減を表明した。ブラジルは、排出量を実質ゼロとする時期を、従来の目標から10年前倒しして2050年とした。

地球温暖化対策の技術と資金で世界を主導しようとする中国の戦略

中国の習近平国家主席は22日の気候変動サミットで、昨年9月に表明した、温暖化ガスを2030年までに減少に転じさせ、2060年までには炭素排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目指す考えを改めて表明した。しかし、目標の前倒しはしなかった。

またインドのナレンドラ・モディ首相は、再生可能エネルギーを拡大するため、米国との新たなパートナーシップを発表した。しかし、気候変動に関する新たな目標や既存目標の引き上げなどを、やはり示さなかったのである。

新興国・途上国は、産業革命以降、長きにわたって温暖化ガスを大量に排出しながら成長を続けてきた先進国こそが、より積極的な排出量削減目標を持つべき、との意見である。従って、先進国と新興国・途上国とは異なる削減目標を持つべきと新興国・途上国は考える。

ただし、中国とインドのスタンスは大きく異なる面もある。インドは、主要国から技術や資金面での支援を受けつつ、地球温暖化対策を進める考えだ。他方、中国は、温暖化対策の技術では世界の先端を目指し、その技術と温暖化対策の資金を海外に積極的に供与し、この分野で世界のリーダーになろうと考えている。つまり、自らは先進国ほどに積極的な温暖化ガス削減を行わない一方で、技術と資金では世界を主導しようとする中国の戦略は、米国にとっては許容できるものではなく、また大きな脅威でもあろう。

日本の2030年の削減目標は50%に届かず

日本は22日に、2030年度に温暖化ガスを2013年度比で26%削減するという従来の目標を大幅に引き上げ、2013年度比46%の削減とする新たな目標を表明した。確かに目標は大幅に引き上げたものの、欧米が事前に要求していたとみられる50%削減には達しなかった。温暖化ガスを2050年までに実質ゼロ(カーボンニュートラル)にすることと、2030年までにピークから50%以上削減することは、もはや先進国の標準になってきた感がある。

46%の削減でも50%の削減でも、達成の実現可能性が見えないトップダウンでの野心的目標であることに違いはない。しかし、日本が46%の削減にとどめたのには、単純に欧米の言いなりにはならないという姿勢が込められているのかもしれない。また、中国がより消極的な温暖化ガス削減目標を掲げる中、日本が温暖化ガス削減を進めると、コスト増加などで中国に対する競争力が低下してしまうことを警戒している可能性もあるのではないか。日本政府は、中国など新興国・途上国も含めた一律の国際削減ルールの策定を主張している。

電源構成の大幅な変更は簡単でない

いずれにしても、2030年度までに温暖化ガスを46%削減できるめどは全く立っていない。達成に向けた最大の課題は、電源構成の大幅な変更だ。日本経済新聞によると、2019年度の日本全体の二酸化炭素(CO2)排出量のうち、発電所を中心とするエネルギー部門は約4割を占めている。そして、発電量の7割以上が火力発電であり、風力や太陽光など再生可能エネルギーは18%に過ぎない。またCO2を排出しない原子力発電の比率は6%にとどまっている。

日本政府は、再生可能エネルギーと原子力の構成比を2030年時点で42~46%まで増やすとの目標を掲げている。ただし、自然エネルギー財団の試算では、この計画を達成できても、エネルギー由来のCO2の削減率は2013年度比22%にとどまる。再生可能エネルギーの構成比を45%まで増やし、石炭火力発電をゼロにしてようやく47%減らせるのだという。

ただし、震災時の原発事故以降、原子力発電の比率を引き上げることは、かなり難しくなっている。それは、技術や経済の問題ではなく、国内政治の問題でもある。また、日本の地理的な状況などを映した太陽光発電、風力発電などのコストの高さが、他国と比べて日本での地球温暖化対策のハードルを上げている面がある。その中で、再生可能エネルギーの発電を急速に拡大すれば、固定買取制度の下で電力利用者に大きな負担がのしかかってしまう。

欧米と比べて温暖化ガス削減に向けた環境が厳しい日本では、より緩い削減目標を認めて欲しい、というのが日本の本音ではないか。しかし、温暖化ガスを2050年までに実質ゼロ(カーボンニュートラル)にすることと、2030年までにピークから50%以上削減することは、もはや先進国グループにとどまる資格のような位置づけにまでなってきている感もある。

(参考資料)
"China, India Complicate Biden’s Climate Ambitions", Wall Street Journal, April 23, 2021
「脱炭素「産業革新」迫る 電源構成の組み替え必須に」、2021年4月23日、日本経済新聞電子版

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