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始まったSPAC(特別目的買収会社)への規制強化

2021/04/28

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SECがSPACの会計ルール変更のガイダンス

株価高騰など過熱色を強めていた米国のSPAC(特別目的買収会社)について、当局の規制強化の動きが始まりつつある(コラム「SPAC(特別買収目的会社)ブームは続いているが」、2021年4月22日)。

4月12日に米証券取引委員会(SEC)は、SPACが投資家に付与するワラント(新株引受権)への会計ルールの適用を変更し、新たに負債とみなす可能性がある、とするガイダンスを出した。

SPACは未公開の企業を買収することを目的に設立された企業である。設立時点では買収先企業が決まっておらず、買収の実績がないことから、「ブランク・ チェック・カンパニー(白紙の小切手会社)」、「空箱企業」などとも呼ばれる。

SPACには、未公開企業への投資の経験が豊富な投資家(スポンサー)と一般投資家が出資する。そしてスポンサーにはワラント、一般投資家には株式とワラントの組み合わせ(ユニット)が付与される。一般投資家は、SPACの株価が上昇すると、その株式を売却して利益を得ることができる。さらに、ワラント(新株引受権)では、固定価格で株式を買い取る権利が付与されることから、SPACの株価上昇のメリットを2重に享受できる仕組みとなっている。

SECは、このようにSPACが初期投資家に付与するワラント(新株引受権)を会計上の負債と見なす可能性がある、とのガイダンスを示したのである。ワラントは資本性金融商品と見なすのが今までの慣行だったため、このガイダンスは、業界に大きな衝撃をもたらしたのである。ワラントが新たに負債と見なせば、財務を悪化させる要因になる。

規制強化の動きがブームに水を差す

SECのガイダンスを受けて、過去に提出した財務報告を修正する動きが、SPACの間に広がり始めている。米取引所に上場する買収実施前のSPACは500社余りあり、その多くが過去の財務報告の見直しを迫られることになる可能性がある。その見直しは、関与する会計士や弁護士に大きな作業負担を生じさせる。またその後も、負債額の定期的な計算と報告が求められる。

SPACの人気が一気に高まった背景には、SPACに買収されることで、通常のIPOよりも煩雑な手続きや規制当局の審査を回避して上場できることがあった。ブルームバーグ社によると、2020年にはSPAC248社がIPOを実施した。2021年も、4月時点で既に300社以上が株式を公開している。しかし、SECの新たな会計ルール適用の見直しは、簡単に上場できるというSPACによる買収を通じた上場のメリットを減少させている。

ワラントに関する会計ルールの適用の見直しだけでは、それほど大きな規制強化とは言えないように思えるが、当局が今後さらなる規制強化に乗り出す、という警戒感をSPACに植え付けているのではないか。

SECは、今回のガイダンスを出す前の4月初めに、SPACを通じて上場する企業にはしっかりした内部管理と正しい会計処理のための財務報告の経験が必要だ、と強い警鐘を鳴らしている。さらなる規制の強化はあると考えておいた方がよいだろう。

ブルームバーグ社によると、今回の会計ルール変更のガイダンスはSPACブームに明確に水を差しているという。既に始まっていた一部の合併案件は続いているものの、SPACによるIPOは停止状態にあるという。SECが次にどのような規制強化を見せてくるか、しばらくは様子を見ているという側面もあるのだろう。SECの規制強化の匙加減次第では、SPACのブームが終焉を迎える可能性もあるのではないか。

(参考資料)
"Audited SPAC Statements ‘Should No Longer Be Relied Upon", Bloomberg, April 22, 2021
"SPAC Boom Dries Up as SEC Warning Curtails Year’s Hottest Trend", Bloomberg, April 22, 2021

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