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ノンバンク(シャドーバンク)のリスクに強い警鐘を鳴らすFRB

2021/05/07

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割高感、過熱感が目立つ各種資産価格

米連邦準備制度理事会(FRB)は6日に、半期に一度の金融システムレポートを公表した。今年年初のゲームストップ株の乱高下や3月のアルケゴス・キャピタルの巨額損失問題にも言及しつつ、米国の金融リスクに警鐘を鳴らす内容となった。

FRBがレポートで焦点を当てたのは、①資産のバリュエーション、②企業と家計の債務動向、③金融機関のレバレッジ、④資金調達のリスクの4点だ。バリュエーションについては、多くの金融資産や不動産などで割高感、過熱感が生じていることを指摘している。

ハイイールド債やBBB格社債の財務省証券との間の金利スプレッドは、リーマンショック前の水準に並ぶ、歴史的低水準にある。レバレッジド・ローンのスプレッドも、リーマンショック前の水準まで低下している。S&P500のPERは、足もとで23倍程度と、2000年以来の高い水準にある。キャップレート(還元利回り)や家賃との比較でみた商業用不動産価格、農地価格も歴史的な高水準だ。

銀行の自己資本は十分に確保されており、また証券会社のレバレッジの水準も低いとする一方、リスクは非銀行金融機関のノンバンク(シャドーバンク)にあると、FRBは指摘する。

ノンバンクと高リスク資産が金融リスクの中核に

ヘッジファンドのレバレッジ(負債)比率は、2020年3月のコロナショック時に急上昇した後は低下に転じたが、2020年下期には再び上昇したようだ。それでもその水準は過去の平均をやや上回る程度であるが、それでは測れないリスクがある、とFRBは指摘する。

投資銀行は、プライム・ブローカレッジ業務の一環として、顧客のヘッジファドに対して貸株や与信などを行うが、その中で、株式投資に関わるヘッジファンドのレバレッジ比率がかなり高い。これは、ヘッジファドに近いファミリーオフィス、アルケゴス・キャピタルの巨額損失問題が、必ずしも個社の問題ではなく、業界全体のリスクを露呈したものであることを裏付けていよう(コラム「リスクテイク傾向を強めるファミリーオフィスの投資姿勢」、2021年5月7日)。

ノンバンクが抱える金融リスクについては、レバレッジ比率が高いヘッジファドに加えて、解約リスク、投げ売りリスクの観点から、MMFや債券投信などにもFRBは注目している。他方、金融商品では、価格高騰が続くハイイールド債、BBB格社債、CLO(ローン担保証券)、ABCP(資産担保コマーシャル・ペーパー)、MMFなどのリスクをFRBは指摘する。こうした高リスク資産を多く保有しているのが、まさにヘッジファンド、ETF、投信、プライムMMF、生命保険などのノンバンクなのである。

高リスク資産の価格下落がノンバンクに損失をもたらし、また資産の換金売りを誘発する。それが高リスク資産の価格のさらなる低下とノンバンクの損失拡大を生じさせる。こうした潜在的な悪循環の可能性が、米国および世界の金融リスクの中核にある。

金融リスクの軽減には金融緩和の正常化も必要か

金融システムレポートを踏まえて、FRBのブレイナード理事は、米国の金融リスクに改めて強い警鐘を鳴らしている。他方、それへの対応としては、規制やマクロプルーデンス政策、例えばカウンターシクリカル資本バッファーなどの手段の利用を示唆している。そのうえで、金融政策はそれには充てない考えを強調している。

金融市場の過熱などに配慮して、金融緩和の正常化が実施されるとの観測が市場に浮上し、それが金融市場を混乱させてしまう、あるいはFRBの金融政策の手を縛ってしまうことがないように、予防線を張っているのである。

しかし実際には、潜在的に大きく膨れ上がった金融リスクを軽減するには、ストレステストなどのミクロプルーデンス政策、マクロプルーデンス政策、そして規制改革では十分ではないだろう。昨年のコロナショックに伴う金融市場の混乱を受けて、FRBが金融危機回避のために極めて積極的な対応をしたことは評価できる。しかし一方で、そうした対応が、それ以前に過熱していた市場の健全な調整の機会を奪ってしまった面もあるだろう。様々な指標は、金融商品の価格の割高感、過熱感がコロナショック前よりも高まっていることを示している。これは、金融緩和策が結果的に行き過ぎたことを示唆しているのではないか。

そうであるとすれば、金融リスクの軽減の目的から、FRBは金融緩和の緩やかな正常化を検討すべきではないか(コラム「動き始めたノンバンク(シャドーバンキング)への本格的な規制強化」、2021年4月30日)。実際、FRBは今後、金融リスクへの対応から、正常化を前倒しする可能性もあるだろう。金融市場は現在、インフレリスクへの対応からFRBが早期に金融緩和の正常化に動くリスクを警戒しているが、それよりも、金融リスクが金融政策に与える影響により注目すべきだろう。

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