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脱炭素化に向け日本では政策面での強力な支援がより重要に

2021/05/26

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目標達成には電力部門の脱炭素化が不可欠

日本政府は、地球温暖化ガスの排出量を2030年度までに2013年度比で46%削減し、2050年には実質ゼロ(カーボンニュートラル)にするという高い目標を掲げている。そのためには、地球温暖化ガスの排出量の42.7%(2019年)を占める電力部門で脱炭素化を急速に進めることが欠かせない。

EVやFCV(燃料電池自動車)、オール電化住宅の普及など、非電力部門での電化を進めることも求められる。しかし、そこで利用される電気やFCVの水素などが、地球温暖化ガスを多く排出される形で作られるのであれば、結局、地球温暖化ガス削減効果は減じられてしまう。やはり、電力部門で脱炭素化を急速に進める必要があるのだ。

そのためには、現状で17%程度(2018年度)にとどまる再生可能エネルギーによる発電の比率を大きく高めなくてはならない。世界では、再生可能エネルギーの発電コストが急速に低下しており、経済合理性あるいは市場メカニズムに基づいて、再生可能エネルギーへの投資が自然に増え、再生可能エネルギーの発電比率を高めている面がある。

しかし、日本の場合には、税優遇、補助金といった財政面での支援、あるいはFIT(固定価格買い取り制度)を通じないと、再生可能エネルギーへの投資が増えにくい状況にある。再生可能エネルギーのコストが他国比で割高なためだ。他方、化石燃料を用いた発電、特に石炭火力発電がコストの観点から維持されやすい。

日本では石炭火力発電のコストが最も低い

これは、日本の再生可能エネルギーの技術面での遅れを反映している訳ではないだろう。「気候変動対策推進のための有識者会議」配布資料(高村ゆかり東京大学教授)によると(原典は世界知的所有権機関(2021年))、2010年から2019年までの日本の再生可能エネルギー関連特許数は9,394件と、2位の米国の6,300件、3位のドイツの3,684件を大きく引き離して世界第1位である。技術面では日本は先端に位置しているだろう。

ところが、平地が少ない、浅い海底面積が少ない、地価が高い、土地利用の規制が強いなど様々な理由から、再生可能エネルギーのコストが他国よりも高くなっている。

ブルームバーグNEF在日代表の黒崎美穂氏(「気候変動対策推進のための有識者会議」配布資料、『世界の脱炭素変化とスピード』)によると、各国での新設発電所による発電コストが最低となる手段とそのコストの水準を比較すると、日本国内では石炭火力発電のコストが最も低い一方、それは74ドル/MWhと他国の最低発電コストよりもずっと高い(図表)。再生可能エネルギーによる発電のコストはもっと高いことになる。

新設発電所で再生可能エネルギーの利用が最も安い発電手段である国が、世界の3分の2となっている中、主要国の中で日本はまさに異質である。

日本と同様に石炭火力発電のコストが最も低い国は、東南アジア地域に多く見られる。ただし、例えばタイでは2020年に、発電のコストが最も低い手段は石炭火力から太陽光発電へと変わった。他の東南アジアの国々でも同様の傾向が見られるという。

(図表)新設発電所による最低発電コストの各国比較

石炭火力発電所が温存されやすく再生可能エネルギーによる発電が増えにくい

他方で、ブルームバーグNEFの見通しによると、新設の再生可能エネルギー発電所(風力、太陽光)の発電コストが新設石炭火力発電所の発電コストを下回るのは、2025年以降になってしまう。さらに、新設の太陽光発電所の発電コストが、現在ある既設の石炭火力発電所の発電コストを下回る時期は、2040年代後半になってしまうという。風力発電については、その時期は全く見通せない状況である。

こうしたコスト構造のもとでは、再生可能エネルギーへの投資は増えない一方、電力部門では既設の石炭火力発電所を使って発電を続けるインセンティブが長く残ってしまう。政策、規制などを通じて政府が強い働きかけをしないと、日本では再生可能エネルギーによる発電比率は急速に高まらず、また世界では批判が高まっている石炭火力発電所を使った発電が長く温存されてしまう。その結果、地球温暖化ガスの排出量を2030年度までに2013年度比で46%削減し、2050年には実質ゼロ(カーボンニュートラル)にするという目標は、達成できなくなってしまう。

日本では、他国以上に政府が強いリーダーシップをもって、脱炭素化を政策的に推し進めていく必要がある。その中には、技術面でなお確立されていない水素発電、アンモニア発電、CO2回収などの新しい分野でのイノベーションを促す措置も含まれる。

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