フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 2年ぶりの党首討論も議論は嚙み合わず深まらず

2年ぶりの党首討論も議論は嚙み合わず深まらず

2021/06/10

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

菅首相はワクチン接種のスピードアップをアピール

9日午後に、菅首相と各野党の党首による初の党首討論が行われた。党首討論の開催は、2019年6月以来2年ぶりである。コロナ禍のもとで東京オリンピック・パラリンピックを開催することの是非やコロナ対策が議論の中心となった。合計45分と時間が限られたこともあり、野党各党の党首らは菅首相を攻めあぐねた感もある。各種世論調査で、菅内閣の支持率が発足以来最低の水準を記録する中で行われた今回の党首討論であったが、それが菅内閣のさらなる大きな失点とはなる事態は避けられたのではないか。

菅首相にとってやや追い風となったのは、ワクチン接種のスピードが足元でようやく高まり始めたことだ。首相は、前日に「1日あたりの接種件数が、目標としていた100万回を超えた」ことをアピールした。さらに、「6月末までには接種回数は4千万回を超える」、「重症化しやすい高齢者は7月中には接種完了する」、「10月から11月にかけては必要な国民、希望する方すべてを終える」、など、次々に新しい見通しを表明していった。

10月に衆議院議員の任期満了を迎えるが、感染拡大が続きまた東京オリンピック・パラリンピックの開催が近づく中、早期の衆議院解散の可能性は低下しているように見える。首相は「新型コロナ対策が最優先と国民が一番期待している。新型コロナ対策にしっかり取り組んでいくことを優先していきたい」と答え、早期解散は適切でないとの考えを示した。

東京オリンピック・パラリンピックを開催したうえで、それが感染リスクを顕著に高めず、さらにワクチン接種の加速を感染抑制へとつなげていく。それらを通じて国民の支持を回復していく、というのが、衆議院選挙に向けた菅内閣の基本戦略だろう。

深まらなかった財政・経済政策議論

他方、経済・財政政策について、立憲民主党の枝野代表は、「30兆円規模の補正予算を速やかに編成すべきだ」と提案した。これに対して菅首相は、「補正予算や新型コロナの予備費を含め、今年度への繰り越しが30兆円ある」と答え、早期の補正予算編成には否定的な見解を示した。

経済・財政政策をめぐる議論は、この繰り越しと補正予算編成の是非に終始してしまった感がある。コロナ関連の各種財政措置の妥当性や、地球温暖化対策、デジタル化などに議論が及ばなかったのは、残念だった。また、コロナ対策を中心として必要な追加措置を議論すると同時に、コロナ対策で膨らんだ財政支出の財源を議論することが重要であるが、それについても党首討論の議題とはならなかったのである。

それ以外には、菅首相が参加する11日からのG7サミットでも大きなテーマとなる、途上国支援、地球温暖化対策、対中国戦略などについて議論がされてもよかったはずだが、実際には言及はなかった。

国民の関心が、目先の新型コロナウイルス問題や東京オリンピック・パラリンピックに注がれていることから、その2つに党首討論の時間の大半が割かれたことは仕方なかったのかもしれない。しかし、衆議院選挙が着実に近づいてきている中、与野党間の中長期的な政策方針の違いを浮き彫りにし、国民に大きな選択肢を提供できるような深い議論が中心となる党首討論であって欲しかった。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn