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動き出した国内政局と追加経済対策

2021/06/16

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9月前半にも衆院解散となる見通し

野党4党が提出した内閣不信任決議案を、与党は15日の衆院本会議で否決した。これを受けて早期の衆院解散はなくなり、東京五輪・パラリンピック後の解散、という流れが固まってきた。9月前半にも解散となる見通しが高まっている。衆院の任期満了の10月21日の解散となり、最も遅いケースで11月28日投票という可能性は残されるが、実際の解散時期はそれよりも早まる可能性が高いだろう。

政府の感染対策への評価などが影響し、内閣支持率は低迷を続けている。その中で、7月23日開幕、9月5日閉幕の東京五輪・パラリンピックが無事に終了すること、ワクチン接種が進む中で新規感染者が抑え込まれること、の2つが内閣支持率を浮上させ、それを追い風に衆院選挙で勝利する、という狙いが菅政権にはあるのだろう。

ワクチン接種については、7月末までの高齢者への2回の接種完了という約束を実現し、さらに10~11月までに希望するすべての国民へのワクチン接種を終える目標も実現できる見通しとなれば、それが衆院選に有利に働くとの考えがあるだろう。

さらに3つ目の選挙の追い風として、今夏には政府は経済対策を策定し、選挙公約とする可能性が高い。コロナ禍で打撃を受けた観光や飲食、運輸といった事業者への支援が中心になるとみられる。

消費税率を5%に引き下げるという野党の公約は問題

他方、野党第一党の立憲民主党の枝野代表は15日に、次期衆院選で政権を獲得した場合に、新型コロナウイルスの経済対策として、消費税率を時限的に5%に引き下げると主張した。その他にも、年収約1千万円以下の個人を対象に所得税を実質免除し、低所得層に現金を給付する考えも示している。

コロナショックへの対応で消費税率を時限的に引き下げた例は、ドイツなどにみられる。しかし、仮に日本で消費税率を引き下げれば、簡単に元の水準に戻すことが難しいことは、今までの税率引き上げの長い歴史を見れば誰の目にも明らかである。それは、既に相当脆弱な日本の税収基盤を一段と損ねてしまう。消費税率1%あたり2.8兆円の税収に相当することから、5%引き下げられれば、年間14兆円もの大幅な税収減となる。その分を国債発行で賄えば、国債発行残高の増加ペースは一段と高まり、また歳出削減で賄えば、社会保障サービスは急激に悪化することが避けられないだろう。

こうした点から、消費税率の時限的引き下げは、かなり問題がある。そもそも枝野代表は5月に出版した新著「枝野ビジョン」の中で、「消費減税が『コロナ禍による消費減少』に対する直接的な対策になるのは、かなり難しい」と慎重姿勢を示していた。今回は、消費税率引き下げを掲げる共産、国民民主に同調することで、消費税率引き下げを衆院選で野党共闘の旗頭とする狙いがあるのだろう。しかし、野党共闘の旗頭とするのであれば、もっと責任のある主張を掲げて欲しい。

大型追加経済対策となる見通しに

他方、枝野代表は、6月9日の党首討論で菅首相に「30兆円規模の補正予算を編成させるべきだ」と主張している。菅首相は、補正予算編成は必要ないと応じたが、巨額の追加経済対策を主張する野党に見劣りすることを避けるためにも、今夏には補正予算を編成し、相当規模の経済対策を実施する可能性が高い。

コロナショックで大きな打撃を受けた企業、雇用者、家計にまだ十分に届いていない支援を強化するためであれば、補正予算編成、追加経済対策の実施は必要だ。

しかし他方で、打撃を受けていない家計も含めた一律の給付金は妥当ではない。財政環境が危機的状況のもとでは、支援は受け取るべき人、企業にピンポイントで届くようにすべきだ。この点からも、野党の主張する消費税率引き下げや年収約1千万円以下の個人を対象とする所得税の実質免除も妥当ではない。

さらに、感染リスクが低下すれば、個人消費は相応に戻ることが期待される中では、経済対策に短期の景気刺激策を盛り込むべきではない。その分、ワクチン接種の迅速化や感染抑制にリソースを使うべきだ。

誰がコロナ対策のコストを負担するかを与野党間で議論すべき

コロナショックによる経済の悪化は通常の景気後退とは異なり、経済の打撃に非常に格差が大きいのが特徴だ。打撃を受けていない、あるいはコロナショックがむしろ追い風となっている企業、業種も決して少なくはない。また、輸出型企業は、現在強い追い風を受けている状況だ。所得が減少していない人も少なくないだろう。

こうした経済情勢の下で政府に求められるのは、適切な所得再配分である。コロナショックで打撃を受けた企業、労働者、家計を支えるコストは、誰が負担するのか、というのが重要な点だ。現在のように、巨額の財政支出を国債発行で賄い続ければ、将来世代に負担してもらうコロナ対策のコストがどんどん累積していく。まさに現代の問題と言えるコロナ対策のコストの多くを将来世代に押し付けるのは、世代間公正の観点から望ましくないばかりか、将来の需要を先食いすることで、中長期の成長期待を押し下げ、経済の潜在力を損ねてしまう可能性がある。

政府は、骨太の方針の中でプライマリー・バランス(基礎的財政収支)の黒字化目標をコロナショック前のものを継続し、財政健全化を一時的に棚上げしている。衆院選挙前に財政健全化の議論を始める可能性は低いだろう。

政権交代を掲げる野党には、適切なコロナ対策の中身に加えて、コロナ対策のコストを誰が負担すべきか、という議論も中核に据えて、与党と正面からぶつかっていって欲しいところだ。

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