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東京都などの緊急事態宣言解除と東京五輪の観客数制限の経済効果

2021/06/17

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3回目の緊急事態宣言による経済損失は3.2兆円

政府は緊急事態宣言を、沖縄県を除く9都道府県については予定通りに6月20日で解除する。他方、医療ひっ迫傾向が顕著な沖縄県の宣言は、7月11日まで延長される。また、東京、大阪など7都道府県については、同じく7月11日まで、まん延防止等重点措置が発令される。宣言解除後も飲食店への午後8時までの時短要請は継続されるが、感染対策を実施している店舗では、酒類の提供を午後7時まで可能とする。

東京都では4月25日以来の緊急事態宣言がほぼ2か月ぶりに解除されるが、新規感染者数は既に下げ止まりから再拡大の兆しを見せている。7月の東京オリンピック・パラリンピック大会開催の影響なども考慮すれば、第4回の緊急事態宣言発令の可能性も視野に入る状況だ。

7月11日までの沖縄県での緊急事態宣言延長の影響も加えると、4月25日から始まった3回目の緊急事態宣言による経済損失は、3.2兆円に及ぶ計算となる。これは、名目GDPを1年間で0.58%減少させ、失業者数を12.7万人増加させる(図表1)。

今回の緊急事態宣言による経済損失の試算値は、第1回の6.4兆円、第2回の6.3兆円と比べると半分程度である(図表2)。宣言の期間については過去2回と同程度であるが、対象区域が狭かったことで、経済損失は過去2回よりは小さくなった。

それでも、今回の緊急事態宣言は4-6月期の実質GDP成長率を年率で9%程度押し下げ、同期の成長率は1-3月期に続き2四半期連続のマイナスとなる可能性は高いと考えられる。


(図表1)第3回緊急事態宣言による経済損失

(図表2)3回の緊急事態宣言による経済損失の比較

慎重な判断が求められる東京大会の観客受け入れ方針

感染対策の観点から、次の大きな課題となるのが東京オリンピック・パラリンピック大会の開催である。

政府は東京大会を予定通りに開催する方針だ。さらに、共同通信によれば、政府は東京大会の観客数を上限1万人とする方向で検討しているとされる。他方、新型コロナウイルス感染症対策分科会の専門家らは、東京大会に伴う感染拡大リスクを強く警戒している。20日までにこれに関する提言をまとめる。NHKによれば、この提言では、感染拡大を防ぐ観点から無観客での開催が最もリスクが少ない、との意見が盛り込まれる見通しだ。

また、国立感染症研究所などは、東京都で20日に緊急事態宣言が解除された場合に、変異ウイルスの影響が小さいと仮定しても、東京大会の開催中に宣言の再発令が必要になるとしている。試算によれば、東京大会を観客入りで開催する場合、無観客開催と比べて8月中の累積の新規感染者数は数千人増えるという。

経済効果の観点からは、観客を入れるかどうかで大きな違いは生じない。筆者は東京大会開催の経済効果を1兆8,108億円と推定しているが(コラム「東京オリンピック・パラリンピック中止の経済損失1兆8千億円、無観客開催では損失1,470億円」、2021年5月25日)、観客数を4分の1にする場合に失われる経済効果の推定値は1,101億円、無観客の場合には1,468億円と、開催による経済効果の10分の1以下であり、それほど大きなものではない(図表3)。

他方で、観客を多く受け入れることが感染再拡大のリスクを高め、それが4回目の緊急事態宣言につながる場合、既にみた3回の緊急事態宣言の経済損失の例に基づけば、3兆円から6兆円規模の経済損失が生じる。観客数を制限した場合に失われる経済効果と比べて、格段に大きくなるのである。

こうした経済的側面も踏まえ、政府は、無観客開催も選択肢に入れて、感染リスク抑制の観点を最優先課題に据えて、観客受け入れの方針を慎重に判断することが求められる。


(図表3)東京オリンピック・パラリンピックに関わる経済効果の損失

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