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カーボンプライシング(CP)導入による脱炭素化で成長は維持されるか

2021/06/23

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環境省審議会での試算はCP導入が成長を阻害しないことを示唆

先般閣議決定された2021年骨太の方針には、CO2の排出に課金するカーボンプライシング(炭素税や排出量取引)について、「専門的・技術的な議論を進める」との文言が盛り込まれた。政府は脱炭素化のためにカーボンプライシング(CP)の導入に前向きであるが、産業界などの反対があることから、なお曖昧な表現にとどめている。

再生可能エネルギーによる発電コストが他国比でかなり高い日本では、市場メカニズムに任せていては、再生可能エネルギーによる発電は緩やかにしか増加しない(コラム「脱炭素化に向け日本では政策面での強力な支援がより重要に」、2021年5月26日)。

2030年度のCO2排出量46%削減、2050年度の実質ゼロ(カーボンニュートラル)という政府目標を達成するには、政策面での強い働きかけが必要であり、カーボンプライシングの導入は、その選択肢の一つとなる。

他方、カーボンプライシングの導入を巡っては、それに前向きな環境省と、企業活動や成長への悪影響を懸念して慎重な経済産業省との軋轢もある。そうしたもと、環境省が21日に開いた審議会(中央環境審議会地球環境部会カーボンプライシングの活用に関する小委員会)では、石炭、石油など炭素を含む化石燃料の消費に課す「炭素税」が成長に与える影響の計量モデルを用いた試算値が示された。

CO2排出量1トン当たり1,000円、3,000円、5,000円、10,000円の4つの炭素価格を設定し、それぞれ2030年までのGDPに与える影響の試算を2つの機関に委託した。一つが、日本政策投資銀行グループの価値総合研究所、もう一つが、国立環境研究所である。

CO2排出量1トン当たり10,000円のケースでは、価値総合研究所の試算によると、炭素税導入による税収増の半分を企業に省エネ投資の補助に回せば、炭素税を導入しない場合よりも2030年の実質GDPの水準は高まった。また、国立環境研究所の試算では、炭素税導入による税収増を企業や家計の省エネ投資に使うと、炭素税を導入しない場合と比べて、2030年の実質GDPの水準はわずか0.1%の減少にとどまる。

炭素税の使い道についての検討が必要に

試算を示した両機関や環境省は、こうした試算結果の評価は難しく、ここから軽々に結論を導き出すことはできないとしている。カーボンプライシングの導入に慎重な経済産業省を、過度に刺激しない配慮もあるのだろう。しかし、これを受けて経済産業省は、これに対抗して、カーボンプライシング及び炭素税の導入による経済への悪影響を示す試算を今後示す可能性があるだろう。

上記の試算が示唆している重要な点は、炭素税導入による税収増加分を何に使うかによって、炭素税導入を伴う脱炭素化の取り組みが経済に与える影響が変わってくる、ということだ。省エネ投資の拡大には、新たな需要を生み出すという需要側の要因と、エネルギー効率を高め、エネルギー消費を抑制することでCO2排出量を減らす、という供給側の要因の2面性がある。

炭素税導入による企業のコスト増加がもたらす需要減少分を、省エネ投資の拡大が穴埋めし、さらに省エネ投資がCO2排出量を減らすことで2050年カーボンニュートラルという政府目標が達成できるかどうかは、まだ良く分からない。現時点では、それはなおナローパスであるようにも思える。

しかし政府は、炭素税導入による税収増加分をどのように使えば、脱炭素化と成長維持の両立が可能になるのかについて、精緻な分析を今後進める必要があるだろう。さらに、炭素税を使って省エネ投資の拡大を支援するだけでなく、再生可能エネルギーによる発電の拡大を促す支援、あるいは、それに関わる新たな技術開発への支援などにも、炭素税を配分していく場合の効果の検証もすべきだろう。

それぞれどのような割合で炭素税の税収を配分するのが良いか、その最適解を求めるのは非常に難しいだろうが、政府はそれにも果敢に取り組んで欲しい。

(参考資料)
「カーボンプライシングの活用に関する小委員会(第16回)」議事次第・配付資料
「炭素税1万円でも成長」、2021年6月22日、日本経済新聞

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