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リベンジ消費で個人消費の爆発的回復は起きない

2021/06/24

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定額給付金が消費に回らなかったのは合理的行動の結果

ワクチン接種の拡大などを受けて新型コロナウイルスの感染リスクが低下していけば、いわゆる「リベンジ消費」で個人消費がかなり強く回復する、との見方が一部にある。

確かに、感染リスクが低下すれば個人消費が持ち直し、先送りされていた消費が顕現化するという「ペントアップディマンド」が、一定程度生じる可能性は高い。しかし、個人消費の爆発といった強い回復を期待するのは行き過ぎではないか。

「リベンジ消費」を後押しするとされるのが、コロナ対策による政府の支援策だ。特に注目されるのは、昨年春から夏にかけて、一人当たり一律10万円が支給された定額給付金の影響である。全国民の99.7%程度が給付金を受け取り、総額は12兆6,700億円に達した。仮にそれがすべて個人消費に回れば、GDPは2.3%押し上げられる計算だ。

実際には、定額給付金の大半は貯蓄に回った可能性が高い。家計調査統計によると、2020年の平均消費性向(消費支出÷可処分所得)は61.3%と、前年の67.9%から6.6%ポイント低下した。その逆数を家計貯蓄率とすれば、32.1%から38.7%へと大きく上昇したことになる。

しかし、感染リスクが低下すれば、その増加した貯蓄を一気に個人消費に回す、との見方には強い根拠はない。そもそも、定額給付金の大半が貯蓄に回ったのは、コロナ問題と関係なく、個人の合理的な行動の結果である。個人は、中長期の所得見通しに基づいて現時点の消費支出を決める傾向が強い。定額給付金は一時金であり、将来にわたる所得の見通しに影響しないことから、個人消費に与える影響も小さかったのである。

追加経済対策の柱として、再び一律に定額給付金を支給すべき、との意見もあるが、その経済効果には期待できない。景気刺激としてではなく、コロナ禍で打撃を受けた個人を支援するというセーフティネット策として実施するのであれば、支給対象先を絞るべきだ。

定額給付金の資産効果を通じた消費押し上げは0.12%程度

他方で、定額給付金が将来の所得見通しに影響を与えないとしても、それが銀行預金に振り込まれ、金融資産が増加したことが、個人消費の押し上げに寄与する、という経路があることは確かである。

例えば、現役世代が退職後に蓄えた金融資産額に一定の目標を持っていると仮定すれば、予想していなかった定額給付金で金融資産(貯蓄)が増えたことから、その分、退職時までの消費を当初予定よりも増やすように調整することが考えられる。それこそが、資産効果である。

しかし、定額給付金がそれほど個人の金融資産(貯蓄)を増やした訳ではない。日本銀行の資金循環勘定によれば、2020年3月末時点の家計の金融資産総額は1,828兆575億円である。支給された定額給付金の総額12兆6,700億円がすべて貯蓄に回ったとしても、それによる家計の金融資産の増加率は、0.69%に過ぎない。

他方、内閣府の試算によると、株式以外の家計の純金融資産が1%増加する際に個人消費は0.178%増加する。0.69%増加の場合に増える個人消費は0.12%となる。

資産効果に注目しても、定額給付金が消費に与える影響はこの程度である。そして、この資産効果が感染リスク低下とともに遅れて一気に顕在化する、との理屈はないのである。

対人接触型サービス消費でペントアップディマンドは出にくい

冒頭で述べたように、定額給付金などの影響とは別に、感染リスクが低下していけば、先送りされていた消費が顕現化するというペントアップディマンドが一定程度生じる可能性は高い。しかし、それについても、強くは期待できないだろう。

通常の景気後退時とは異なり、コロナ禍のもとで抑制される個人消費の分野には大きな偏りがある点に注目する必要がある。それは、飲食、宿泊、アミューズメント関連など、対人接触型サービス消費である。そうした消費にはペントアップディマンドは相対的に生じにくい。

例えば、自動車などの耐久消費財の場合、何らかの理由で自動車購入ができない時期が2か月続けば、その間に自動車購入を考えていた人は、2か月後に一気に自動車購入に動くだろう。これが典型的なペントアップディマンドである。それを受けて自動車産業も、自動車の挽回生産を行う。

ところが、対人接触型サービス消費の場合には、完全に穴埋めするような形でのペントアップディマンドは生じにくい。感染リスクが低下すれば、消費者が今まで我慢していた外食や旅行を増やすことになるが、だからと言ってコロナ禍で控えていた外食や旅行を一気に取り戻すため、毎日外食、旅行、映画館に行く人はいない。こうしたサービス支出では、完全なペントアップディマンドは生じないのである。

このような点を踏まえると、感染リスクが低下していけば、いわゆる「リベンジ消費」で個人消費が爆発的に拡大する、と考えることに強い根拠はない。

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